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ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

壊死性腸炎(NEC)

2011年07月12日 | 周産期医学

necrotizing entero-colitis: NEC

NECは、主として低出生体重児にみられる腸管壊死を伴う重篤な腸炎である。未だ死亡率も高く、新生児における最も重篤な病態の一つである。腸管の未熟性、血行障害、細菌感染などが発症の要因となっている。

● 疫学

男女比は1:2と女児に多い。

90%が生後10日までに発症する。

十二指腸を除く全腸管に発生しうるが、好発部位は回腸下部、盲腸、上行結腸である。

母乳栄養児に比較して人工栄養児で高い発生率を示す。

日本での発生頻度は、NICU入院中の児で0.15%で、出生体重が小さいほど高くなり、出生体重1000~1499gでは0.46%、出生体重1000g未満では1.49%とされている。

● 臨床所見

大部分の症例は授乳開始後に発症する。初発症状は、腹部膨満、嘔吐、下痢、下血、不活発、発熱、低体温などであるが、急激な経過で腸管穿孔をおこすことが多い。

Necabd
著明な腹部膨満

● Bellの病期分類

Ⅰ期(NEC疑診例):
非特異的な症候で、胃残乳増加、血性胃残、腹部膨満増強など、いわゆる未熟児でみられる重篤だが非特異的な症候を認める。

Ⅱ期(NEC確診例):
Ⅰ期で認める症候に加え、X線所見として、腸管の壁内ガスや門脈ガスがみられると、臨床的にNECの確定診断に至る。

Ⅲ期(NEC進行例):
腸管穿孔によって、Ⅱ期よりもさらに進行した重篤な状態であり、全身的なショックの所見を呈する。X線所見で腹腔内遊離ガスの存在を認める。

● 腹部単純X線所見

初期の腹部X線像は軽度の腸閉塞像で、びまん性の腸管ガス像、拡張腸管ループ、腸管壁の肥厚像などを示すが、Bellの病期分類Ⅰ期に相当する時期ではNECの確定は困難で、鑑別のため便・吐物・血液の細菌検査、血清電解質、生化学、血液・凝固機能検査を行い、X線撮影を繰り返して経過観察する。腹部単純X線所見で腸壁気腫像(pneumatosis intestinaris)が認められれば診断が確定する。門脈内ガス像が認められれば最重症新生児の状態で、一般的には高度の壊死を伴う。腹腔内遊離ガスがあれば腸管穿孔の所見であり手術適応となる。

Necperforatecone
腸壁気腫像(pneumatosis intestinaris)

Portalvenousgas
腸管穿孔を起こしたNECの症例
腹腔内遊離ガス(free air)
門脈内ガス像(portal venous gas)

● 血液検査所見

特異的な検査所見はない。白血球数の増加もしくは減少、白血球分画の左方移動、顆粒球減少、血小板減少、アシドーシスの進行、電解質異常、CRPの上昇などを、病態の進行に伴い認める。Ⅰ期では正常であることも多い。

● 予防

Probiotics(生菌製剤)の使用、母乳による超早期授乳によるNEC予防効果が期待される。

● 治療 

NECは早期診断、早期治療が重要で、多くの症例では疑診の段階からの治療が必要になる。NECが疑われればまず内科的治療が主体となり、外科的治療は穿孔例や、内科的治療に反応せずに状態が増悪した症例に行われる。

1. 内科的治療

基本は腸管の安静と合併症や敗血症の予防で、状態の悪化を防ぐことにある。絶食(経腸栄養の中止)、経鼻胃管を挿入し消化管の減圧、電解質バランスおよび蛋白補給に留意した輸液、適切な抗生剤、抗真菌薬の使用、積極的な呼吸・循環管理を行う。DICの所見を認めた場合は、新鮮凍結血漿や濃厚血小板を輸血する。保存療法で全身状態の改善を認めれば、症状、特にCRPの改善を目安にして慎重に経腸栄養を再開する。

2. 外科的治療

腸管穿孔は手術の絶対適応である。腸管病変に対する内科的治療にても腸管の損傷が強く、イレウス症状が改善しない場合も外科的治療が必要になる。穿孔性腹膜炎を来す前での早期の外科治療の介入が生存率向上に関与するとされるが、穿孔する前での腸管壊死の臨床所見は不正確であり、手術適応には議論がある。手術の基本は壊死腸管の摘出と二次感染巣の除去で、最も病変の強い腸管の切除と一時的腸瘻造設が標準とされるが、一期的に腸吻合を行うこともある。状況によっては、まずドレーン留置のみを行い、炎症所見や全身状態をみながら、必要に応じて腸瘻造設などの腸管への治療を行う場合もある。

● 予後

汎発性腹膜炎,敗血症,DICなどを高率に合併し,予後は不良である。治癒しても腸管の狭窄や短腸症候群などの後遺症を残すことがある。日本小児科学会で5年ごとに行っている新生児外科全国集計では、1998年から2008年までの低出生体重児のNECの死亡率は42~50%で推移している。

****** 参考となるサイト

日本小児外科学会ホームページ:壊死性腸炎の解説
http://www.jsps.gr.jp/05_disease/gi/nec.html

腸管壁内ガス像( Professor Fujioka's Files )


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