ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

新型インフル:「水際対策だけで食い止め不可能」WHO

2009年05月14日 | 新型インフルエンザ

コメント(私見):

新型インフルエンザの感染確認者数は、34か国・地域で計6121人に達しました。世界の感染確認者の集計数は、ニュースを見るたびにどんどん増えています。

WHOの専門家(進藤奈邦子・医務官)は、「症例数の集計は、もはや正確に感染状況を反映しているわけではない」と述べました。また、「水際対策だけでは食い止められない。もうウイルスが日本国内に入ってきていると思って行動しなければならない」とも述べました。

免疫の有無により、健康被害の状況は大きく左右されます。例えば、日本人の多くが免疫を持つ季節性インフルエンザでは毎年人口の1~2割が感染して、1~3万人が死にます(致死率:0.05~0.1%)。ところが、住民に免疫のないマダガスカル島に季節性インフルエンザが02年に上陸した際は、罹患率は67%、致死率は2%に達しました。

新型インフルエンザの場合、ウイルスに対する免疫がないので、パンデミックとなった場合は全人口の2~4割が感染する可能性があります。日本の全人口の25%の感染と想定した場合、ウイルスの毒性がアジア風邪並み(致死率0.53%)なら、入院患者53万人、死者17万人程度。スペイン風邪並み(致死率2%)の毒性なら、入院患者200万人、死者64万人程度となります。(岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長)

人類とウイルスとの戦いは、人類が存続する限り、これからも果てしなく続きます。犠牲者は必ず出ます。万が一、強毒性の新型インフルエンザ・ウイルスが蔓延した場合には、太平洋戦争以上のペースで死者が続出する可能性もあります。我々は、正確な情報を集めて、万全の準備を整え、健康被害を最小限に食い止めるように落ち着いて行動するしかありません。

**** 毎日新聞、2009年5月13日12時5分

新型インフル:「水際対策だけで食い止め不可能」WHO

 【ジュネーブ澤田克己】世界保健機関(WHO)で新型インフルエンザ対策を担当する進藤奈邦子医務官は12日、記者団に「水際対策だけでは食い止められない。もう(ウイルスが国内に)入ってきていると思って行動しなければならない」と述べた。

 進藤氏は、日中などアジア各国が水際対策に力を入れている理由として、「新型肺炎(SARS)やH5N1型高病原性鳥インフルエンザ流行の経験が背景にあるのだろう」との見方を示した。

 進藤氏は「症例数の集計は、もはや正確に感染状況を反映しているわけではない」と述べた。

(毎日新聞、2009年5月13日12時5分)

**** 共同通信、2009年5月13日23時56分

新型インフル、感染者6千人超える  死者は65人に

 新型インフルエンザの感染者数は日本時間13日午後11時半現在、34カ国・地域で計6121人に達した。メキシコで感染確認者が164人増えたほか、スペインの患者数が欧州で初めて100人に達し、中国と香港でそれぞれ2例目となる感染者が確認されるなどした。

 死者はメキシコで2人増え、4カ国計65人。

 先月23日に米疾病対策センター(CDC)が米国内の7人が豚インフルエンザに感染したと発表して以来、各国で新型インフルエンザへの感染疑い例や感染確認が相次いだ。

 世界保健機関(WHO)は同月27日、6段階の新型インフルエンザ警戒水準(フェーズ)のうち、人から人への感染能力が高い新型のウイルスが、地域レベルの集団感染を起こすようになった状態を示す「4」に引き上げ。同月29日には、世界的大流行(パンデミック)が「差し迫っている」と表明、「5」に引き上げた。

 日本や韓国、中国でも感染が確認されているほか、今月12日には東南アジアで初となるタイでの感染者も確認されるなど感染地域は拡大している。

 WHOは、警戒水準をパンデミックを意味する「6」に引き上げる条件として、「地域社会レベルでの持続的な感染拡大」が米州以外で確認されることを挙げており、スペインでの感染状況に注目しているとみられる。(共同)

(共同通信、2009年5月13日23時56分)

**** 毎日新聞、2009年5月13日東京夕刊

新型インフルの「最悪」 冬に再襲?

闘いはまだ始まってもいない

 新型インフルエンザの感染者は13日現在、世界で6000人に迫る勢いで、日本でも発症者が出た。症状は普通のインフルエンザとほぼ同じらしいが、安心して良いのだろうか。最悪の場合に備え、専門家にワーストシナリオを聞いた。【國枝すみれ】

 <専門家が描く悲劇的シナリオ>

 ・免疫なく人口の2~4割が罹患

 ・爆発的感染で戦時並み犠牲

 ・高病原性の出現

 ◇「それでも理性保って」

 ★「スペイン」の悪夢

 慶応大学の速水融名誉教授(歴史人口学)は、新型インフルエンザは1918年から3年間猛威をふるったインフルエンザ「スペイン風邪」に似ていると警告する。スペイン風邪のウイルス構造は今回の新型インフルエンザと同じH1N1型で、やはり弱毒型だった。だが最終的に世界で2500万~4500万人の死者を出した。

 速水氏によれば、スペイン風邪は最初、人々の注意をひかなかった。1918年3月に米カンザス州の軍基地で発生。新兵数千人が罹患(りかん)し、数十人が死んだ。「3日風邪」と呼ばれ症状は軽かった。ところが8月後半までにウイルスが変異。最初の感染爆発が起きた米国の港町ボストンでは病院に死体が積み上がる惨状となった。

 スペイン風邪は日本をどのように襲ったのか。東日本の32紙の報道によると、1918年4月3日に最初の感染報道が、5月中旬には死者が出るが、数件で終わる。はやりの症状は軽かった。「最初は相撲風邪と呼ばれていた。力士が次々と休場したから」

 しかし同年10月から再び死者が発生。11月だけで13万人以上が死亡。翌19年の12月~20年2月にも流行に襲われ、ピークの20年1月には7万人以上が死んだ。死者の総計は45・3万人。「日露戦争の戦死者だって約8万人だったんだよ。いかに多くの国民が短期間に死んだかが分かるでしょう」と速水氏。

 スペイン風邪は2波、3波と襲いかかり、そのたび致死率は高まった。今回も南半球にウイルスが滞在し、日本がウイルスに適した乾いた冬になった時に再襲する可能性はある。ウイルスという概念さえなかった当時に比べ、現代社会は薬やワクチンがあり、情報網も発達している。だがジェット機やエレベーター、全館空調システムのビルなど密閉空間も生まれ、ウイルスに味方するものも増えた。速水氏は言うのだ。「新型インフルエンザとの闘いはまだ始まってもいない」

 ★免疫がない

 免疫の有無で状況は大きく異なる。日本人の多くが免疫を持つ季節性インフルエンザでは毎年人口の1~2割が感染、1万~3万人が死ぬ。致死率は0・05~0・1%。ところが、住民に免疫のないマダガスカル島に季節性インフルエンザが02年に上陸した際は、罹患率は67%、致死率は2%に達した。

 そして我々は新型インフルエンザに対する免疫を持っていないのだ。

 厚生労働省の新型インフルエンザ専門家会議の議長で、国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は、過去のパンデミックの感染率から推測して、新型のインフルエンザが国内で広がった場合、全人口の2~4割が感染する可能性があるという。25%の感染と想定した場合、57年に流行したアジア型並み(致死率0・53%)の強さなら、入院患者は53万人、死者は17万人。スペイン風邪並み(致死率2%)なら、200万人が入院し、64万人が死亡する計算だという。

 今回の新型インフルエンザの致死率は、メキシコで0・4%だ。医療が進んでいる日本での数字は低くなるとみられる。

 しかし、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の土居弘幸教授(疫学・衛生学)は「今回の新型インフルエンザがもっと病原性や感染力を強めて、世界にまん延する可能性がないともいえない」と話す。

 糖尿病、人工透析、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)など基礎疾患を持っている人や妊娠後期の妊婦はインフルエンザが重症化しやすい。

 土居教授はいう。

 「必ず犠牲者は出る。仮に2、3カ月に64万人が死ぬようなことになれば太平洋戦争以上のペースだ。数カ月の間にあの人もこの人も死んだという事態が起きる。その時に冷静な対応をすること。いくら心配しても状況は変わらない。変えられるのは自分の行動だけだ」

 ★強毒性の恐怖

 岡部氏にもワーストシナリオを聞いてみた。

 「H5N1ですね」と迷わず答えが返ってきた。トリの間で流行している高病原性のインフルエンザウイルスだ。人に感染した例は数百件あり、一部では人から人への感染例も出ている。感染した場合、脳、心臓、肝臓、腸、血管内膜など全身にウイルスが広がる。WHO(世界保健機関)統計によれば、致死率は56%、10代に限れば73%にもなる。危険度は今回の新型インフルエンザの比ではない。

 また、地球上には豚とトリと人が一緒に暮らす地域もある。豚の体内でトリと人のウイルスが混じり合い、トリのウイルスの強毒性を保ったまま人間に罹患するタイプの豚インフルエンザウイルスが出現することもありえる。

 新型インフルエンザは今のところタミフルとリレンザが効くが、耐性を持つウイルスが生まれるシナリオも考えられる。

 強毒の新型インフルエンザがまん延したらどうするのか。土居教授が強調するのは理性だ。不要不急の外出はしない、マスクをして、うがい、手洗いをする、症状が出たら病院に行かず発熱外来に電話する、など決められたことを守ることが重要だという。

 「行動は制約されますが、空爆直下、戒厳令下と思えばいいわけです。サンフランシスコ大地震の時は暴動が起きたが、阪神淡路大震災では何も起きなかった。日本人の美徳を発揮すればいい」

 最悪のシナリオは、爆発的な感染で患者が一度に医療機関に押し寄せ、社会がパニックになって経済がストップすることだ。速水氏は「(ピーク時の外出を避けるため)3週間分の食料は備蓄しておきなさい。マスクは使い捨て」という。

 今ですら店頭でマスクは品薄だが、足りない場合は? 「70度以上のお湯で熱湯消毒してもいいよ。ウイルスは熱に弱いから」。マスクにアルコール(エタノール消毒液)をスプレーして、一晩干すという手もあるという。

 情報を集めて準備を整え、万一の場合は落ち着いて行動するしかなさそうだ。

(毎日新聞、2009年5月13日東京夕刊)


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