ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

胎児発育不全(FGR)

2010年04月22日 | 周産期医学
fetal growth restriction (FGR)
[概念] 本来のFGRとは、胎児が何らかの理由で「本来発育すべき大きさ」に育ってないことである。しかしながら、個々の胎児の「本来発育すべき大きさ」を知る方法がないため、妊娠中の胎児推定体重が、該当週数の一般的な胎児体重と比較して明らかに小さい場合をFGRと称している。
【FGRの診断基準】 胎児体重基準値の-1.5SD値以下を当面の目安とし、その他の所見(羊水過少の有無、胎児腹囲など)や、再検による経時的変化の検討から、総合的にFGRの臨床診断を行うことを勧める。(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011)

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ309 胎児発育不全(FGR)のスクリーニングは?
Answer
1. FGRのスクリーニングのため、健診ごとに子宮底長を測定する。(C)
2. 妊婦全例に対して、妊婦30週頃までには超音波による胎児計測を行い、必要に応じて再検する。(B)
3. FGRの危険因子(表)を有する妊婦では、危険因子を除去するよう指導し、より慎重な胎児発育評価を行う。(C)
4. FGRの診断には、出生時体重基準曲線ではなく、胎児体重基準値を用い、-1.5SD値以下を診断の目安とする。そのほか胎児腹囲などの所見、あるいは再検による経時的変化の検討から、総合的にFGRの臨床診断を行う。

(表)FGRの危険因子・ 内科的合併症: 高血圧、糖尿病、腎疾患、炎症性腸疾患、抗リン脂質抗体症候群、膠原病、心疾患、など・ 生活習慣: 喫煙、アルコール・大量のカフェインの摂取など・ その他: light for gestational age(LGA)児分娩既往、妊娠前のやせ、妊娠中の体重増加不良、など

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胎児体重の妊娠週数ごとの標準値
Hyo13

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子宮内胎児発育曲線EFWによる基準値(実線±2.0SD、破線±1.5SD)
Efw

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標準化された胎児体重推定式(日本超音波医学会)
EFW=1.07 x BPD3 + 0.30 x AC2 x FL
BPDの測定方法・測定断面:胎児頭部の正中線エコーが中央に描出され、透明中隔腔と四丘体槽が描出される断面・測定方法:探触子に近い頭蓋骨外側から対側の頭蓋骨内側までの距離を計測
ACの測定方法・測定断面:胎児の腹部大動脈に直交する断面で、胎児の腹壁から脊椎までの距離の前方1/3から1/4の部位に肝内臍静脈および胃泡が描出される断面・測定方法:エリプス法による上記断面の外周をACとする
FLの測定方法・測定断面:大腿骨の長軸が最も長く、両端の骨端部まで描出される断面・測定方法:大腿骨化骨部分両端のエコーの中央から中央を計測する

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子宮底長に関してFGRスクリーニングとしての有用性を疑問視する意見もある。毎回超音波検査を実施する場合には、子宮底長計測は省略できる。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ310 胎児発育不全(FGR)の取り扱いは?
Answer
1. 以下の検査項目を参考に、原因を検索する。・ リスク因子に関する再確認(CQ309参照)(B)・ 胎児形態異常・胎盤臍帯異常の精査(超音波など)(B)・ 妊娠高血圧症候群関連検査(血圧、蛋白尿、各種血液検査など)(C)・ その他母体疾患(糖尿病、甲状腺機能異常、抗リン脂質抗体症候群など)に関する検査(C)・ 先天感染異常診断のための母体血清学的検査(C)
2. 複数の形態異常、当該疾患に特徴的な形態異常、および高度FGRを認める場合には、染色体異常も疑う。染色体検査については妊婦の意志を尊重する。(B)
3. 分娩時期の決定には、以下の検査を必要に応じて行い、その結果を参考にする。・ NST(non-stress test)、CST(contraction stress test)、BPP(biophysical profile)(B)・ 超音波パルスDoppler法による胎児臍帯動脈血流測定など(B)・ 超音波による胎児計測(推定体重や頭部発育)の推移(C)
4. 分娩中は分娩監視装置を用い、連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)

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FGRの分類
①均衡型(symmetrical type) 発育不全型・妊娠初期から発育が障害されるため、均整のとれた発育障害となる・染色体異常、胎内感染、胎児奇形 など・頻度:20~30%、児の予後は不良
②不均衡型(asymmetrical type) 胎児栄養失調型・胎盤血流障害に起因した栄養障害によって生じる・血流再配分が生じる結果、頭囲の発育は正常範囲にあるが躯幹の小さい不均衡な発育を示す・妊娠後期で発症することが多い・胎盤梗塞、前置胎盤、臍帯付着異常、妊娠高血圧症候群、多胎、母体合併症妊娠、喫煙 など・頻度:70~80% 、児の予後は比較的良好

Fgr

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normal small
10パーセンタイル未満または-1.5SD未満であっても正常な胎児を、normal smallとよぶ。
基準より体重が少なくても超音波検査や染色体検査で異常所見を示さない場合、normal smallの可能性が高い。
母体が低身長の場合と高身長の場合とでは児の発育は異なるであろうと推測される。母体低身長例では、-1.5 SDを下回る可能性もあり、このような場合には、symmetrical type を呈する。

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FGRの子宮内管理に必要な胎児well-beingの評価方法
①胎児心拍数モニタリング:  26~28週では、胎児評価に対するコンセンサスは得られてない。この時期の未熟な胎児の場合には、accelerationが認められないことをもってnon-reassuring とは評価できない。
②超音波断層法:  推定体重、羊水量、胎児心拡大
③超音波パルスドプラ法:  臍帯動脈拡張期末期血流の途絶、逆流
臍帯動脈血流における拡張期の途絶・逆流の出現は、胎児胎盤循環不全を示唆する重要な所見である。
FGR例においてこれらの所見が認められた群の周産期死亡率は極めて高率であり、厳重な周産期管理を要する。

Zu007

Tozetsu

Fgr1

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asymmetrical type FGR 娩出時期の決定
①軽症例: CST・胎児心拍数モニタリングによる評価
②重症例:  
 ・不可逆的な状況に陥る前に娩出を決定することが重要である。
 ・2週間以上の頭囲発育停止例では娩出を考慮する。
 ・BPSによる評価を参考にすることができる。

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symmetrical type FGR 児娩出の時期や方法について
・妊娠初期の胎児感染や多発奇形による問題も絡み、必ずしも早期娩出や帝王切開によって予後の改善が期待できるとは限らない。
・児の状況によっては、救命が困難な場合もあり、このような場合には、帝王切開の回避もまた必要である。

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