私見(コメント):
「地域医療再生計画」は、国が総額3100億円の基金を設け、市町村をまたいで広域で設定される全国の「医療圏」の中から90カ所程度に、それぞれ25億円か100億円程度を交付するという事業で、これは政府が今年4月27日の臨時閣議で、一般会計規模で13兆9255億円に上る補正予算案を決定し国会に提出したことにさかのぼります。
現在、補正予算の見直し作業が進行中で、3100億円の地域医療再生基金のうち750億円は執行停止が決定され、今後さらに縮小される可能性もあると報道されています。
長野県では、10の二次医療圏(佐久・上小・諏訪・上伊那・飯伊・木曽・松本・大北・長野・北信)がありますが、今回、県医療審議会で、「地域医療再生計画」の交付対象となる医療圏として、上小と上伊那の2医療圏が選定され、今後、この2医療圏の「地域医療再生計画」に対し、25億円づつの交付が受けられる見込みとのことです。
上小と上伊那の2医療圏の医療環境が非常に厳しいことは分かりますが、県内の他の8医療圏もそれぞれ相当厳しい状況に置かれていることは間違いありません。どの医療圏も危機的状況に置かれ、必死にもちこたえているのが現状です。もしも、交付される補助金が一部の医療圏のハード面の整備に使われるだけなら、これが県全体の地域医療の再生につながっていくのかどうか疑問に感じます。
例えば、上小の医療再生計画には、上田市産院を長野病院の近くに新築移転する計画とか、東御市民病院に院内助産所を新設する計画とかが盛り込まれていますが、常識的に考えて、産科一次施設の整備に莫大な公的資金を投入し続けたとしても、もしも地域の基幹病院である長野病院の周産期医療提供体制が現状のまま放置されるのであれば、この計画が地域の周産期医療提供体制の再構築に寄与するのか疑問に感じます。また緊急の課題として、今現在の上小地域における多くの産科救急患者を受け入れている佐久総合病院や篠ノ井総合病院などの周辺医療圏の基幹病院が疲弊して、万が一、次々に機能不全に陥ったら、近い将来、上小だけでなくその周辺の医療圏の周産期医療提供体制も崩壊の危機に陥ってしまう可能性があります。現在ぎりぎりのところで何とかもちこたえて地域の周産期医療や救急医療を支えている医療機関にも、機能不全に陥らないための緊急避難的な救済措置が必要だと思います。
二次医療圏は全国で348ヵ所ありますが、各都道府県に2医療圏づつしか「地域医療再生計画」が認められないのはなぜでしょうか? 国の医療対策として地域医療を再生するために各都道府県に50億円づつの予算が計上されるのであれば、国内のすべての二次医療圏の地域医療の体制強化に寄与するような、もっと合理的な予算の使い方もあったのではないか?と疑問に感じます。
****** 東信ジャーナル、2009年10月15日
長野病院に研修医や指導医 信州大学と連携し安定医師派遣 上小医療圏22億4千万円 長野県上田市
県は13日、地域医療の課題解決に取り組む医療圏を国が支援する「地域医療再生事業」に、上小(坂城町を含む)と上伊那の2医療圏の再生計画を国へ提出することを決めた。上小医療圏は、平成21~25年度の5年間で22・4億円の事業費を投じ、国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)の機能回復や、周産期医療体制の整備を図る。
上小医療圏は、ハイリスク分娩を取り扱っていた長野病院が平成20年8月から分娩を休止しており、ハイリスク分娩は他医療圏に依存せざるを得ない状況が続いている。また2次救急医療機関(輪番病院など)の負担が増しており、患者の受け入れに支障が出ているとする。
計画では、信大と連携して長野病院に研修医や指導医の受け入れ体制を整備し、産婦人科医や麻酔科医など安定的な医師派遣につなげる。
救急医療体制では、平日夜間に内科系の軽症患者を受け入れる成人初期救急センターを整備。同センターは当面は長野病院の敷地内にある小児初期救急センターと併設し、25年度までに新たな施設を整備する方向で検討する。成人初期救急センターの受け入れ患者数は平成25年度は約1300人を目標に掲げている。
周産期医療体制の確立では、上田市産院の移転新築の建設費や、東御市民病院の院内助産所の設備費に充てる費用などを盛り、25年度の圏域内の受け入れ分娩数を20年度比23%増の1900件、このうち長野病院の分娩再開でハイリスクは約200件を目標にする。
上小医療圏の再生計画は、上田地域広域連合の5市町村や上田市、小県、歯科の各医師会などと策定した。
同事業は、政権交代後の見直し対象の補正予算に含まれていたが、県によると、厚生労働省は「各都道府県2カ所の再生計画は予定通り進めたい」と説明しているが、政府の最終決定には至っていないとしている。
(東信ジャーナル、2009年10月15日)
****** 伊那毎日新聞、2009年10月14日
地域医療再生事業 上伊那医療圏選定される 県医療審議会で了承
地域医療の課題を解決するため、県が策定する事業を実施する「地域医療再生事業」に、上伊那医療圏が選定された。
これは13日、長野県庁で開かれた県医療審議会で報告され、了承された。
県内で厳しい医療環境にある上伊那と上小の2医療圏が選ばれた。
審議会で示された計画によると、上伊那では伊那中央病院、昭和伊南総合病院、辰野総合病院の公立3病院で新たに「公立病院運営連携会議」を設立し、3病院の将来的な経営統合を見据えて、機能分担と連携のあり方を検討する。
伊那中央病院は、第3次救命救急センターを担う病院と位置づけ、現在ある「地域医療センター」を一部拡充するほか、5年のうちに救命救急センターへの指定を目指す。
昭和伊南総合病院は、「地域医療支援リハビリテーションセンター」を整備し、2次救急から回復期を担う病院に、辰野病院も2次救急から回復期を担う病院として体制を整備する方針。
機能再生を推進するため、電子カルテなどによる診療情報を共有する地域連携ネットワークも整備するとしている。
そのほか、伊那中央病院に「内視鏡トレーニングセンター」を整備し、全国からトレーニング医師を受け入れ、医師不足の解消につなげたい―としている。
これらの事業は国から25億円の補助を受け、5ヶ年計画で実施される予定。
(伊那毎日新聞、2009年10月14日)