ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

深刻化する産科医不足 助産師の活躍に期待

2007年09月07日 | 飯田下伊那地域の産科問題

今、全国的、全県的に、分娩を取り扱う施設がどんどん減っていて、残り少なくなった生き残っている産科施設に地域の妊婦さん達が集中する状況にあります。

生き残っている産科施設の仕事量はどんどん増えていますし、今後も生き残っていこうとする限り、施設の仕事量がどんどん増えていくのは確実です。従って、将来的に地域で産科施設として生き残っていくためには、今、産婦人科医、助産師、小児科医、麻酔科医などのマンパワーを早急に増強する必要があります。

全国各地の産科施設が相次いで閉鎖される度に、分娩取り扱い業務に関与できなくなってしまう助産師が大量に発生しています。彼女達の貴重なパワーを地域内で有効に活用することが非常に重要だと思います。

事態がここにまで至れば、『いかにして県内分娩施設の総崩れをくい止めるのか?』をみんなで真剣に考えなけれなならないと思います。

****** 中日新聞、2007年9月2日

深刻化する産科医不足 助産師の活躍に期待

 県内でも昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)と県立須坂病院(須坂市)が来年4月からお産休止するなど、深刻化する産科医不足。飯田下伊那地方はいち早く医療機関の役割分担、職能集約化に着目し、独自の連携システムを構築したモデル地域だ。順調に機能しているが、妊婦の希望は「安心安全」と「心のケア」。妊婦と近い場所にいる、助産師の自立と職域拡大にも期待は大きい。(石川才子)

 飯伊地方のお産は、年間で約1800件。かつては13施設で取り扱っていたが、高齢化や医師不足により、2006年からは飯田市内の市立病院と2開業医(椎名レディースクリニック、羽場医院)だけ。医師1人あたりの出生数は、04年の156人から06年は260人に増える見込みで、県内でも突出している。

 連携して地域医療を守ろうと06年、カルテを共有化、お産は市立病院を核にし、妊婦検診は他の産科施設が担うセミオープンシステムを構築。3施設がお産を、松川町の下伊那赤十字病院と市内の3開業医(平岩ウイメンズクリニック、西沢病院、徳永病院)が妊婦検診を担当している。

 お産は順調というが、結果的に検診施設に妊婦外来が集中。医師は休み時間を削り、時間を延長して対応するが、妊婦からは「予約が取れない、待ち時間が長い、検診と出産場所が異なるのは不安」など苦情が増えた。

 市内の開業医で検診を受ける主婦(35)はいう。「命を託す医師との会話が少ないのが不満。忙しそうで、ちょっとした悩みも話せない。医師への信頼度が高い分、話すだけで安心できるのに」

 新たな問題も浮上した。来年4月以降は下伊那赤十字病院の常勤産科医がいなくなり、昭和伊南総合病院の妊婦受け入れも想定される。市立病院は金銭的損失を覚悟で医師派遣を検討するが、関係者は「それ以上は不可能。飯伊のシステム自体が崩壊する」と頭を抱える。

 少ない医師でシステムが機能する背景には、実際に赤ちゃんを取り上げる助産師の活躍がある。各医療機関から引く手あまたで、県内では開業助産師も徐々に誕生。日本助産師会県支部(保谷ハルエ支部長)は「開業助産師が取り扱うお産は年々増え、06年度は158人」という。

 飯田市の水嶋弘美さん(38)はお産施設に悩み、第2子を自宅出産した。「お産は、本当に死ぬほど大変。苦しんでいるときに励まし、支えてくれるのは助産師。医師の医療的なサポートも大切だけど、助産師の心のケアはもっと大切。ひとりの助産師がずっと担当してくれ、安心して産めた。」

(以下略)

(中日新聞、2007年9月2日)


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9 コメント

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 しかし、助産師だけに期待しても、現場の者とし... (一産婦人科医)
2007-09-07 22:16:32
 現状であまりにも助産師ばかりに期待する傾向は誰の差し金か大体予想は付きますが、個人的には危険な発想と思われます。
 「昔は助産師のみがとっていた」っていつの時代ですか?周産期死亡率などが今とは比較にならない時代ではないですか!
 昨今のマスコミの「助産師賛美」をするならそのリスク(死亡率があがるなど)をちゃんと伝え、国民が納得すれば何も問題はありませんが、こじれた症例のみを押し付けられ、挙句の果てには産科医のみがバッシングされ訴えられるようになりましたら、私は即刻産科をやめます。
 実際、経験上、信頼出来る助産師の場合はこちらも助かりますし、患者さんの満足度もあがっていいのですが、現状ではそういう助産師の確率はあまり高くないと感じているのが現場をやっている者の実感です。
 
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すみません、追加です。 (一産婦人科医)
2007-09-07 22:39:29
 助産師会もしたたかですね。内診問題などで散々産科医の供給源(開業医)を減らしておきながら、「もっと助産師が自立し、病院や診療所と連携することで職域を広げられれば、産科医不足の一助になる」などと言うとは・・・。産科開業医のおいしい部分を助産院で横取りする気がありありと分かります。
 私の地域の話ですが、産科開業医からの搬送などの依頼は意思疎通も取れるのでストレスはあるもののまだましですが、助産院からの搬送はひどいものです。助産院ばかり増えたら(実際はそんなには増えないでしょうが)産科をやめる潮時でしょうか?否、そのときでは手遅れでしょうか?
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一産婦人科医・さま (管理人)
2007-09-08 06:37:16
コメントありがとうございました。

分娩を取り扱う施設の数は今後もどんどん減り続けるでしょうから、産科施設として生き残っていく限りは、施設の分娩件数が増え続けることは確実で、おそらく、将来的には施設の年間分娩件数が二千件とか三千件とかになっていくことが予想されます。

産科病棟の助産師数が増えて、しっかりと教育が行き届くようにすれば、非常に大きなパワーとなります。

できるだけ大勢の産科医と助産師を集めて、大きなチームで仕事をしていくことを考えないことには、産科施設としてこの世に生き残っていくことが難しくなっていくと思います。
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産科医・助産師がうまく連携を取れれば相当のパワ... (県内一産科医)
2007-09-08 07:28:03
助産師が最大のパワーを発揮できるのは、医師がきっちりバックアップし、異常分娩にきちんと対応してもらえる状態で、正常分娩の管理に能力を集中できるときだと思います。助産師単独ではむしろ能力を十分に発揮できないと思います。
その点で、助産師単独での開業や産科医なしでの院内助産院は、むしろ助産師の能力を最大限発揮することを阻害するように思います。

妊婦が助産師に求めていることは、プチ産科医として働くことではなく、もっと別のところにあると思うのですが、現場を見ることなくイデオロギーのみで医療行政を進める方々には理解されないようです。
某ドラマのようですが「医療は現場で行われている」のであって、「会議室で行われているんじゃない!」と思いますけどね。
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管理人様。 (一産婦人科医)
2007-09-08 14:44:31
 
 お返事ありがとうございました。
私も管理人様のような考えと同じです。
いつも院内の意思疎通の取れた助産師と働いていますので、院内ではすでに協力関係です。
 
 これらの記事の問題点は県内一産科医様の御指摘どおり、助産師が産科医の代わりになるような誤解(プチ産科医)がある点です。
 
 私の病院の助産師は「助産師のみで」お産をすることは考えていないようですが、少数でも勝手な事をする助産院があるだけで現場は大混乱します。実際痛い目にあっていますので・・・・。
 
 ですので記事のような内容はあまりに「非現実的」で、産科がもっと崩壊しかねないかと危惧するところであります。 
 
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>助産師が産科医の代わりになるような誤解(プ... (amigudara)
2007-09-09 00:09:23
門外漢が恐れながら申し上げます。
正常出産が急変する確率と、地域的な事情、あとは授産師の自信、社会の受容。
それらの条件が揃えば産科医不在の地域でも、助産師が死蔵されることとなく、40-50年前同様活躍し得るでしょう。
個人的には、あれこれ危惧する事無く、一回やってみられたら、と思います。
もっとも、知り合いの助産師で,単独でお産を取る人は未だありませんし,自分の関係者を任せるつもりもありません。
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 40-50年前のように、助産師がすべて自分たちだけ... (一産婦人科医)
2007-09-09 02:09:16
 しかし、お分かりとは思いますが、すべてを知らせれは確実に妊婦さんは引くでしょう。助産院から搬送された時点でまったくリスクをまったく知らされていない方も結構おられました。
 また、現場を理解しようともしない「お偉いさん」の姿勢は手柄は助産院に責任は病院にもっていく感じですし。
 現場を知るものとしては、末端の現場が40-50年前に戻るようでしたら、産科医は助産院の尻拭いを強要されそうなので、私は産科医以外の道を模索します。でもすでに模索している方も結構いて、私は間抜けな逃げ遅れかもしれません。
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 最近は医療サイドからも世論からも声があがって... (へっぽこ助産師)
2007-09-11 16:07:58
 それでもお国はあまり変わらない姿勢・・・医療費削減のために合併症を起こした母児は助産師が助けられなかったという体裁にして助けないという国策かと邪推してしまいます。

 助産師だって恒常的にサービス残業して宅直やって、夫の稼ぎがなければ子どもひとり育てていけないようなお給料で働いているんです。
 拠り所なんてやりがいしかないのに、最も重要な安全面で50年前の水準しか提供できなくなったら誰が現場に残るというのでしょうか?
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数年前スウェーデンで出産しました。妊婦検診も出... (一産婦人科女医)
2007-09-11 17:59:17
しかし、
日本では1)個々の助産師の技術の格差 2)医師対助産師 という対立構造(私が働いていた時は仲良くしておりましたが。 3)多くの助産師は責任を医師や上責 MWにおしつける傾向にある(入院時診察やモニターの判読を当直医に任せる。 そしてなにより、4)患者意識の問題 今の患者さんが望む医療サービスが高望みすぎる。(母体、胎児の安全が当然100%と思っている上に、性別判断やエコーフィルムのサービス、美味しい食事などなど なにからなにまで最高級のサービスが当たり前だと思っている。 など  これらの大きな問題により日本で上手く機能していくには医師、助産師、行政、患者意識 の歩み寄りに相当の時間がかかるかと思います。
あわてて書いているのでまとまりなくすみません。
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