1人医長で頑張っていた当時(二十年前)は、土日も朝から晩まで働き通しで、夜中もいつ病院から呼び出されのるか全く分かりませんでした。連続勤務で1週間1度も帰宅できないようなこともしばしばありました。当然、夏休みや正月休みを取得することもできませんでした。医師の頭数を増やさない限り、こんな生活が長続きする筈がないと痛感しました。
科を存続させていくためには、科の運営に必要な医師の頭数を維持することが絶対必須条件です。科の総仕事量はほぼ一定ですから、所属する医師の頭数が減れば、それに反比例して医師1人当たりの仕事量はどうしても増えてしまいます。従って、いったん医師数が減り始めたら、医師の労働環境はますます悪化する一方となり、挽回することが非常に難しくなってしまいます。
地域医療の崩壊をくい止めるためには、いかにして地域に必要な医師の頭数を維持していくのか?が最重要課題です。しかし、この課題の解決を現場の医師に押し付けられても大きな限界があります。国家レベルの何らかの対策によってある程度は計画的に医師配置のバランスを適正化する必要があり、医学部入学定員を増やすだけの対策では全く不十分だと思われます。
追記(2009年5月30日)
強制的に医師を配置し、医師本人の意思を無視して、やりたくもないことを無理矢理やらせることはできないと思いますが、産婦人科に関して言えば、最近はやる気満々の若い医師が多く参入し、ちょっと前までの最悪の時期と比べると少し明るい兆しも見えてきました。
周産期医療の現場では、産科医、新生児科医、麻酔科医、助産師、看護師などの多くの専門家で構成される大きなチームで一つの仕事をしています。もしもある日突然、新生児科医が全員いなくなってしまえばチームはいきなり総崩れとなってしまい、チームとしての仕事が何もできなくなってしまいます。麻酔科医が突然いなくなったとしても同じことです。医師の配置を自然の成り行きに任せておくだけでは、全体としてなかなかうまくいかないのは当然です。偶然にも各科専門医がバランスよく集まった地域だけはうまくいくが、そのバランスが崩れたとたんにその地域の医療が突然崩壊してしまうということでは、医療のあり方があまりにも無計画すぎます。必要な専門医を計画的に養成し、必要な部署にバランスよく配置する何らかのシステムが必要だと思います。
****** 読売新聞、2009年5月25日
医師配置、新機関で…厚労省研究班が提言 地域ごとに専門医定数
医師不足や地域、診療科による偏在を解消するための抜本対策として、医師の計画配置がクローズアップされている。
多くの先進国が何らかの計画的な医師配置策を取っているなか、厚生労働省研究班(班長=土屋了介・国立がんセンター中央病院院長)もこのほど、日本でも第三者機関が診療科ごとの専門医数などを定める計画的な医師養成を行うべきだとの提言を打ち出し、さらに論議が高まりそうだ。(医療情報部 坂上博、利根川昌紀)
厚労省研究班は、舛添厚労相の諮問機関である「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化検討会が2008年9月、医学部定員の1・5倍増などの提言を打ち出したのを受け、発足。質の高い専門医を養成するための制度改革などについて検討を重ねた。
報告書では、〈1〉専門医の質の向上を図る〈2〉患者を幅広く診ることができる家庭医・総合医を養成する――ことなどを掲げたが、その具体策として打ち出したのが、専門医の定数を定め、計画的に養成するための第三者機関の設立だ。
現在の専門医制度は、各診療科の学会が独自に認定。選考基準もまちまちで、定数も決まっていない。これが、産科や小児科、外科など激務の診療科で医師が不足する原因にもなっている。
研究班は、専門病院や学会、医学部、開業医、自治体らで組織する「卒後医学教育認定機構(仮称)」の設立を提言。地域ごとに、患者数に応じた適正な数の専門医が養成されるよう、研修病院に対し定員枠の策定を求める。
先進諸国の多くは、診療科や地域ごとに専門医の数を決めるなど、医師を計画的に配置する何らかの仕組みを設けている。フランスなどでは国による専門医数の規制が行われているほか、米国では医師らで作る第三者機関が専門医の養成数を定めている。
医師に診療科や地域ごとの定数を設けることについては、「職業選択の自由を奪うのではないか」、「居住地の自由もないのか」など、医師の自由意思を無視した強制的な配置ではないかとの誤解に基づく、反発の声も一部に聞かれる。
研究班では、医師が診療科や勤務場所を自由に選べる日本のように「市場に委ねる方法では、医師の配置は最適化されない」としたうえで、「強制的に行われるものではなく、患者数などに基づいて必要な専門医を養成することで、適正な医師配置に結びつけようとするもの」(土屋班長)と説明する。
国は今年度の医学部入学定員を昨春より693人増やし、過去最高の8486人に増員。また初期研修について、来年度から都道府県ごとの募集定員の上限を設けるなど、「医師不足対策」を講じているが、いずれも診療科別の定数などを規制するものではなく、医師不足・偏在解消の抜本策とはならない。
厚労省は、「今回の研究班提言を踏まえながら専門医のあり方を検討していきたい」(医政局総務課)としている。
(以下略)
(読売新聞、2009年5月25日)
頭数は増えても時間外勤務はしない、時間外の呼び出しには応じない、当直では外来を受けないといった遵法勤務にとどまる医師も出てくる気がします。もしくは免許だけ持って別の職種へ流れることも考えられます。
周産期医療の現場では、産科医、新生児科医、麻酔科医、助産師、看護師などの多くの専門家で構成される大きなチームで一つの仕事をしています。もしもある日突然、新生児科医が全員いなくなってしまえばチームはいきなり総崩れとなってしまい、チームとしての仕事が何もできなくなってしまいます。麻酔科医が突然いなくなったとしても同じことです。医師の配置を自然の成り行きに任せておくだけでは、全体としてなかなかうまくいかないのは当然です。偶然にも各科専門医がバランスよく集まった地域だけはうまくいくが、そのバランスが崩れたとたんにその地域の医療が突然崩壊してしまうということでは、医療のあり方があまりにも無計画すぎます。必要な専門医を計画的に養成し、必要な部署にバランスよく配置する何らかのシステムが必要だと思います。