ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日立総合病院産科休止 『ドミノ倒し』懸念の声 (東京新聞)

2009年08月06日 | 地域周産期医療

地域周産期母子医療センターの機能を維持していくためには、産婦人科医、小児科医、麻酔科医をそれぞれ最低5~6人づつは確保し、助産師も30人~40人は確保する必要があります。当然、個人的な理由で辞めていく人も毎年何人かは必ずいますから、不足した人員を毎年補充し続ける必要があります。例えば、ある年に麻酔科医の不足を補充できなければ、突然、センター全体の機能を維持することが困難となってしまいます。小児科医や産婦人科医の不足を補充できない場合でも同じことです。要するに、関係するすべての部署の人員が充足されていないと、全体の機能を維持することが困難となります。どこか一つの部署が人手不足に陥れば、たちまち全部署が存続不能の危機に直面します。

妊婦水戸へ集中 周辺の産科医負担増

日立製作所日立総合病院(日製病院)、地域周産期母子医療センターを休止

日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院

日立総合病院 分娩予約一時中止

****** 東京新聞、茨城、2009年8月6日

日立総合病院産科休止 『ドミノ倒し』懸念の声

 「地元の病院がハイリスクのお産に対応できないのは、いざという時に困る」。小さな子どもを連れて、日立市の日立製作所日立総合病院に来ていた同市の母親(34)がため息をつく。「四つ年上の姉は、二人目の子どもを妊娠することすら迷っているんです」

 危険を伴う出産や新生児医療までを担う県北地域の「地域周産期母子医療センター」に位置付けられていた同病院が今年四月、センターを休止してから四カ月。お産の拠点が失われたことが、地域の女性に妊娠をためらわせるほどの不安を与えている。

 休止のきっかけは昨年五月。日立総合病院には常勤産科医が六人いたが、派遣元の東大医学部が医師不足を理由に、今年三月末で全員の引き揚げを告げてきたことだった。

 結果的に若手の常勤産科医一人が残ることにはなったが、手が足りないため、危険性のある分娩(ぶんべん)から通常分娩まで年千二百十二件(二〇〇七年)を取り扱ってきた県北地域の出産の受け皿は当面、幕を下ろすことになった。

 日立総合病院の周産期センター休止のしわ寄せがきているのが、出産時に危険性を伴う県北の妊婦らの受け入れ先となった水戸市の水戸済生会総合病院や水戸赤十字病院など、県央地域の病院だ。

 水戸済生会総合病院の山田直樹産婦人科部長は「春から扱う妊婦が月平均十人弱は増えた印象だ。先月中ごろからは二十一床ある産科のベッドの満床状態が続いている」と、産科医の激務に一層拍車が掛かったことを明かす。

 日立総合病院や日立市、県は来春、同病院で通常分娩だけでも再開することを目標に、産科医探しに努めている。県の仲介で秋以降、水戸赤十字病院から日立総合病院に日替わりで非常勤産科医が派遣されることになった。週数回の手伝いを申し出る開業医も四、五人見つかった。だが、これに残留した若手常勤医一人を加えても「指導的立場の核となる常勤医がもう一人いないと、通常分娩の再開は厳しい」というのが日立総合病院と県の共通認識だ。

 同病院の竹之内新一副院長は「水戸の病院にまで負担を与えており、このままでは(県内で)産科医のドミノ倒しが起きてしまう。わらをもすがる思いで産科医を探している」と話す。

 地方の医師不足の原因の一つに、新人医師が自由に研修先を選べるようになった卒後臨床研修医制度の導入が挙げられる。医師が出身大学の医局に戻らなくなり、従来のように医局が地方の病院に医師を供給する機能を果たせなくなった。

 こうした現状に、医療分野の複数の県職員からは病院や自治体が医師を確保することの限界を指摘し、「医師不足の地域や診療科目には一定の強制力で、医師を配置する制度をつくるべきだ」とする声が上がる。

 一方、地域医療に詳しい城西大の伊関友伸准教授は「産科医や小児科医は、やりがいを感じる医師でないと長続きしない。給与の向上、扱う分娩数や当直日の低減など、待遇を改善していくことが医師確保には遠いようで近道」と語る。

 住民が地域で安心して暮らし続けるため、待ったなしの問題となっている医師不足。新知事には国への働き掛けも含め、“処方せん”を示すことが求められている。【この企画は伊東浩一が担当しました】

(東京新聞、茨城、2009年8月6日