ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

シンポジウム「産婦人科医不足の解消を目指して」、第60回日本産科婦人科学会

2008年07月12日 | 飯田下伊那地域の産科問題

全国各地で分娩の取り扱いを中止する医療機関が続出し、早急な対応が求められています。今回の日本産科婦人科学会総会(横浜、2008年4月12日-15日)では、シンポジウムのテーマとして「産婦人科医不足の解消を目指して」が取り上げられました。

北里大・海野教授の基調講演に続き、6人のシンポジスト(東海大・松林准教授、宮崎大・金子准教授、信州大保健学科・金井教授、岡山大・関医師、亀田総合病院・鈴木部長、大阪厚生年金病院・小川部長)より、各地域のユニークな取り組みが報告されました。

****** Medical Tribune、2008年7月3日

第60回日本産科婦人科学会

深刻化する産婦人科医師不足解消に向け勤務環境の整備を

 産婦人科医不足が深刻化し,分娩を廃止する医療機関が続出するなど早急な対策が求められている。横浜市で開かれた第60回日本産科婦人科学会(会長=東北大学大学院発達医学講座周産期医学分野・岡村州博教授)のシンポジウム「産婦人科医不足の解消を目指して」(座長=北海道大学・水上尚典教授,山形大学女性医学分野・倉智博久教授)では,医学部での卒前・卒後教育でいかに産婦人科の希望者を増やし,医療機関での診療体制のなかで離職者の増加に歯止めをかけるか,さらに増え続ける女性医師が出産後も働き続けられる環境づくりをいかに整備するかなど,さまざまな角度からの実践報告が行われた。地道な取り組みの結果,産婦人科医の増加に結び付いた実例が紹介され,産婦人科医不足にあえぐ全国の大学,医療機関に希望を与える内容となった。

年間500人の新規専攻医育成を

 北里大学産婦人科学の海野信也教授は,基調講演で「産婦人科医の減少を食い止めるには,最低でも年間500人の新規産婦人科専攻医を確保する必要がある」との見解を示した。
Photo_4 同教授は,産婦人科医不足の深刻さを,各種統計を交えながらクローズアップした。まず,全体としての産婦人科医の数について,医師数は全体で増えているなか,産婦人科医はここ8年間で10%減少しており,全勤務医師数に占める産婦人科医の割合は1970年代の10%台から3.8%にまで低下。1990年以降,わが国の出生数は10%減少しているが,それを上回るスピードで産婦人科医数が22%減少,毎年約180人の減となり,医師1人当たりの出生数は増え続けるという事態となっている(図 1)。
 また,産婦人科全体に占める女性医師の割合は,日本産科婦人科学会の会員のうち30歳代が50%,20歳代では70%となり,小児科,眼科など他の診療科と比較しても突出している。さらに,経験年数5年ごとの分娩を扱う率を見ると,卒後11~15年目で男性医師は8割が実際にお産を担当しているのに対し,女性医師は経験年数が増えるごとに減少,約52%まで落ち込んでおり,産婦人科医では,男女で働き方に違いが認められた。
 平成19年度の新専門医調査では,女性医師が5年後に希望する就労形態は非常勤かパートと答えた医師が多く,女性医師の増加は分娩を継続的に担う人材の減少につながることを示している。結果として,わが国の分娩施設はここ10年で病院25.4%,診療所で35.3%の減少となっている。
 これらの統計から,同教授は「産婦人科の新専門医が毎年300人以上増えても産婦人科医は減少し続けている。減少を防ぐには少なくとも年間500人以上を養成しなければならない。これをいかに確保するか,今現場にいる産婦人科医が仕事を続けられる環境をどのように整備するかを考えなくてはならない」と述べた。

(中略)

産科医療崩壊の危機を回避

 信州大学小児・母性看護学講座の金井誠教授は,産科医療体制崩壊の危機から脱却し,2008年には長野県として新たに7人の産婦人科医を育成できたことを報告した。
 長野県では,分娩を中止する施設が相次ぎ,帰省分娩を断らざるをえない地域が拡大している。2005年には年間1,800分娩を6施設で対応していた県南部の二次医療圏で3施設が分娩中止を表明,半年後に3施設分850分娩が受け入れ先を失う医療崩壊危機が勃発した。行政,医師会,医療機関関係者から成る「産科問題懇談会」を立ち上げ,対応を検討した。具体的には,分娩数の最も多い市立病院に広域連合から5億円の支援を行って分娩室の増築,助産師の増員などを行うほか,産科をセミオープンシステムとして,紹介状のない初診外来は市立病院以外の施設で対応するよう診療機能分担を明確化した。地域住民に対する周知徹底も行った結果,同院の分娩数は年間552件から1,003件に急増したが,危機回避に成功。セミオープンシステム導入後,外来患者が18.4%減少したため,同院産婦人科医の過重労働感は以前と同等かむしろ軽減できた。
 危機回避後も,女性医師の退職が相次ぐなど産科医師不足が深刻な状況は続いた。対策として,「出産子育て安心ネットワーク事業」に2008年度補正予算で約1,200万円を計上,高リスク分娩の取り扱いに応じて研究奨励金を個人に支給する仕組みをつくった。国立大学病院の医師個人に対して,行政が奨励金を与えるのは全国でも初めての取り組みとなる。
 大学での卒前,卒後教育では,対話や診療に触れる機会を重視。学生には,宿泊実習で分娩に立ち会う機会を増やし,当直医が夕食をともにして語らい,緊急入院や緊急手術の診療を一緒に行うなど,熱意ある指導体制を構築した。研修医には,主体性を重視しながら何でも相談できる上級医を身近に配置して,安心して仕事ができる環境を整備した。
 また,術前,術後臨床カンファランスでは,放射線科医とともに術前画像診断を行い,術後には摘出物から術前診断を振り返り,病理カンファランスでは病理組織標本を自分でもチェックするなど診療に触れる機会を増やした。
 さらに同大学独自の取り組みとして,地域医療人育成センターを設立。医学部1~2年生が妊娠初期から分娩まで1人の妊婦を受け持ち,産科診療の魅力を体験する実習や,インターネットを利用した遠隔セミナー,全国の研修医と医学生を対象に夏期セミナーを開催,信州と産婦人科の魅力をアピールした。こうした努力の結果,2008年には同大学と関連病院に計7人の産婦人科新人医師を誕生させることができた。
 最後に,同教授は「産婦人科医が教育整備の中心的役割を果たすことで,大学全体および産婦人科を活性化する原動力になる。愛情と情熱ある診療と教育,明るく振舞う,あきらめないのAAA(トリプルA)を実践していきたい」と結んだ。

(以下略)

(Medical Tribune、2008年7月3日)


地域周産期センターにおける麻酔科医の役割

2008年07月12日 | 地域周産期医療

周産期施設において、産科医、新生児科医とともに麻酔科医の存在が非常に重要です。いつでも30分以内に帝王切開を実施するためには、24時間体制で麻酔科医が院内に常在する必要があります。

****** 読売新聞、2008年7月12日

地域周産期母子医療センター「迅速に帝王切開」3割だけ

麻酔科医不足が原因

 緊急帝王切開など高度な医療が必要なお産に当たるため、都道府県が指定する全国の地域周産期母子医療センターのうち、国が設置基準として求めている「30分以内に帝王切開ができる態勢」を昼夜問わずとっているのは、約3割に過ぎないことが厚生労働省研究班(主任研究者=池田智明・国立循環器病センター周産期科部長)の全国調査でわかった。

 産科、小児科より麻酔科医不足が原因と答えた施設が多く、麻酔科医確保も重要な課題であることが判明した。

 調査は今年3月、地域周産期母子医療センターに指定された209施設に対して実施、103施設(49%)が回答した。有効回答のあった92施設のうち、26施設(28%)は「常に30分以内に帝王切開ができる」と答えたが、44施設(48%)は「日勤帯のみ」、20施設(22%)は「(昼夜とも)ほぼ不可能」と答えた。

 「日勤帯のみ」「ほぼ不可能」とした64施設に、理由を複数回答で聞いたところ、「手術室の確保が困難」が44施設、「麻酔科医がいない」が21施設。これに「産科医がいない(13施設)」「看護師不足(12施設)」「小児科医がいない(10施設)」が続いた。厚生労働省は、地域周産期母子医療センターについて、米国の学会の目安などを参考に「30分以内に帝王切開で分娩が可能な医師配置が望ましい」という基準を設けている。

 調査に当たった埼玉医大総合周産期母子医療センター産科麻酔科の照井克生・准教授は「産科、小児科だけでなく、麻酔科の人員配置も今後、十分配慮すべきだ」と話している。

(読売新聞、2008年7月12日)