ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

国の医療事故調案に反対 医学部長病院長会議

2008年02月16日 | 医療全般

我が国の妊産婦死亡率の推移を見ると、1950年は10万分娩に対して176でしたが、2000年には6.3となりました。また、周産期死亡率(早期新生児死亡率と妊娠28週以後の死産率との合計)の推移を見ても、1950年は出生1,000に対して46.6でしたが、2000年には3.8となりました。 これらのデータから、この五十年間で我が国の分娩の安全性が著しく向上したことがわかります。

しかし、今でも実際には、千人に4人の赤ちゃんが、また1万人に1人の母親がお産で亡くなっているわけですから、現在の医療水準であっても、必ずしも、一般に信じられているように『お産は母児ともに安全』とは限りません。例えば、羊水塞栓症や癒着胎盤などの疾患の場合、非常にまれな発症率ながら、いったん発症すれば、発症直後に母体死亡となる可能性も非常に高いです。それらの致死的疾患がいつどの妊婦に発症するのかの予測は非常に困難です。

担当医がご遺族に対して、『非常に稀な疾患による病死だった』といくら説明しても、実際に分娩時母体死亡が発生した場合には、その原因に関してご遺族に納得していただくのが非常に難しい場合も多く、(大野病院事件のように)警察が刑事事件として医療に介入してくるような事例も増えてきました。

結果が悪ければ担当した医師個人の刑事責任が問われるということになってしまうと、救急、外科、産科などの大きなリスクを伴う診療科に従事する者は、この国から完全にいなくなってしまうでしょう。

医療関連死の原因をめぐる医療機関側と患者側との紛争を回避するためにも、『中立的立場の第三者機関が医療関連死の原因を究明する制度』を早急に整備する必要があると多くの人が考えています。

事故原因を究明する新組織は完全に中立的立場でなければ意味がないので、事故調査委員会のメンバーに遺族代表や病院関係者は絶対に入れてはいけないと思います。今回公表された「全国医学部長病院長会議」の見解に賛同します。

****** 共同通信、2008年2月15日

国の医療事故調案に反対 医学部長病院長会議

 全国80大学の医学部長らで構成する「全国医学部長病院長会議」(会長・大橋俊夫信州大医学部長)は15日、政府が創設を検討している医療事故の原因究明のための新組織(医療事故調)について「事故調査と刑事罰が連動している限り、わが国の医療に壊滅的な影響を与える」として、現在の厚生労働省の原案(第2次試案)に基づく立法化には反対する見解を公表した。

 厚労省が昨年10月に発表した第2次試案は、事故が疑われる患者の死亡事例について、新組織への届け出を医療機関に義務付ける内容。新組織が刑事責任を追及すべきと判断した場合には、警察に速やかに連絡するとしている。

 これに対し同会議は「何が刑事罰の対象になるのかあいまいで、通常の医療行為でも処罰される恐れがある」と批判している。

(共同通信、2008年2月15日)