ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

脳性麻痺について

2008年02月06日 | 地域周産期医療

脳性麻痺の定義(厚生省脳性麻痺研究班、1968):「受胎から生後4週以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する。」

脳性麻痺の発生率は、新生児1000人あたり2~4人と言われています。

以前は、脳性麻痺は分娩時仮死に関係していることが多いと考えられていましたので、産科的管理が向上すれば脳性麻痺の発生頻度は減らせるはずと多くの人が信じていました。

しかし、近年の著しい産科的技術の向上にもかかわらず、脳性麻痺の発生率は減っていません。 最近では、分娩時仮死は脳性麻痺の原因としてはむしろまれであることが明らかになってきました。

脳性麻痺の原因は未だ十分には明らかにされていませんが、胎児の発達中に低酸素症に対し弱くなる何らかの要因があると考えられています。未熟児では脳性麻痺の発生率がやや高くなっています。胎児期・幼児期早期における脳炎、髄膜炎、単純ヘルペス感染症、硬膜下血腫を来たす頭部外傷、血管の障害、その他多くの原因による脳損傷の結果として起こります。

脳性麻痺は、どの産科施設の分娩であっても、一定の頻度で必ず発生します。ハイリスク妊娠や未熟児の分娩を多く扱っている2次・3次病院であれば、1次病院と比べて、脳性麻痺の発生率は高くなります。

脳性麻痺の発生頻度は将来も減らないでしょう。脳性麻痺に対する障害補償制度は早急に整備される必要があると多くの人が考え始めています。

****** Career Brain News、2008年1月24日

産科の補償制度、骨格まとまる

 出産した子どもが脳性麻痺(まひ)になった場合、医師らの過失を裁判で立証しなくても補償がなされる「産科医療の無過失補償制度」の骨格が1月23日、財団法人「日本医療機能評価機構」の準備委員会(委員長=近藤純五郎・近藤社会保障法律事務所)でまとまった。民間の損害保険を活用した裁判外の紛争手続きによって訴訟リスクを減らし、深刻化する産科医不足の解消につなげる狙いがある。しかし、医療事故の被害に遭った家族などから「不平等な制度だ」という不満も出ている。

 この制度は、分娩を取り扱う病院や助産所が「運営組織」を通じて損害保険会社に保険料を支払い、新生児に脳性麻痺の後遺症が残った場合に保険金が支払われる仕組み。

 補償対象に認定されると、新生児1人当たり数百万円の「準備一時金」と総額2,000万円の「分割金」が支給される。

 この分割金は2,000万円を20年分割にした金額で、20年以内に死亡しても20年間支給される。

 補償の対象は「通常の妊娠・分娩にもかかわらず分娩にかかる医療事故により脳性麻痺になった場合」で、「医療事故」には医師らに過失がない事故も含む。

 具体的には、(1)出生体重2,000グラム以上で、かつ、(2)在胎週数33週以上で脳性麻痺になった場合で、(3)重症度が身体障害者等級の1級および2級に相当する者――が補償対象になる。

 ただし、これらの要件を満たしても、「除外基準」に該当する場合は補償されない。除外基準は、脳の奇形や染色体異常などの先天性要因、分娩後の感染症で脳性麻痺になった場合であり、補償の対象は極めて限定されている。また、出生後すぐに亡くなった場合には脳性麻痺の診断が付かないため、補償されない。

(以下略)

(Career Brain News、2008年1月24日)