ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

地方病院の医師供給体制について

2007年05月10日 | 地域医療

かつては、地方自治体病院で医師が足りなくて困った場合に、市長、院長、事務長などが雁首をそろえて大学の医学部にお参りをして、教室員を派遣していただくように要請し、大学の医局人事で医師を派遣してもらうというのが常套手段でした。

私自身も、医局人事で、現在勤務する病院に赴任しました。ある日突然、教授室に呼ばれ、何事か?と思って教授室に行ってみると、「今度、○○病院に産婦人科が開設されることになり、教室員を派遣するよう要請があった。君に行ってもらうことに決めた。」との天のお告げがあり、新天地での一人医長生活が始まりました。

現在でも、地方自治体病院にとって、大学の医局人事が非常に重要な医師供給源であることに全く変わりはありませんが、現行の新臨床研修制度が始まって、研修医達が自分の研修先を自由に指定できるようになり、医師供給体制が激変しました。

研修医の研修先が分散し、以前ほどには研修医が大学病院に集まらなくなってしまったために、大学病院自体の診療態勢を維持するのが困難となってきて、関連病院に医師を派遣する余裕がだんだん失われつつあります。派遣医師の大学病院への引き揚げにより、医師不足で診療態勢の維持が困難となっている地域中核病院も少なくありません。

研修医の研修先が医局人事により否応なく決まっていた従来のシステムはほとんど崩壊しつつあり、研修医の自由意志により研修先が決まる新しいシステムになったため、今後は、研修医にとって魅力のある研修態勢が整ってない限り、研修医は決して集まりません。

また、2年間の初期研修に続く後期研修でも事情は全く同じで、医師個人の自由意志での病院への就職がだんだん主流となりつつあり、大学病院も多くの就職先候補の一つという位置付けになってきています。従って、医師の供給源として、従来通りに大学の医局人事だけに依存していたんでは、いくら待っても、欠員補充の医師は永久に来ないかもしれません。

病院スタッフの平均年齢が年々上がり、医師数も減る一方で、残った医師は皆おじいさん先生ばかりで若い医師が全くいないような状況では、病院の明るい未来は決してあり得ません。今後、病院がこの世の中に生き残っていくためには、研修医に選ばれるような魅力ある研修態勢を整えてゆくことが必須条件だと思います。

かつての医学部卒業生は、いったんどこかの医局に入局したら最後、その後の自分の職場は、有無を言わせぬ医局人事で決まっていたので、自分自身では全く関与できませんでした。しかし、今の医学部卒業生は、他学部卒業生と全く同様に、自分の人生をかけて真剣に就職活動をするようになりました。

世の中の状況はどんどん変化しています。高齢化した医師だけの不十分な診療態勢でむりやり頑張り続けるのにも限界があります。もしも、この先、病院独自ではどうしても若いスタッフを集められなくなり、病院の診療態勢を維持することが困難になれば、病院の現態勢には早めに見切りをつけ、さっさとどこかの病院と合流して、集約化による診療態勢の再構築を目指すしか道はないのかもしれません。