無知の涙

おじさんの独り言

ハイスクール落ガキ「社会科見学2」

2010年01月11日 | 思い出
パン工場から向かった先は、なんとアスレチック公園。

い、いや、だから。


小6の遠足と卒業旅行で来たって!ホントに。


小6の遠足で来て楽しかったから、卒業旅行で来たのだ。

当然この日だって小学生たちがウヨウヨ遊んでる。


そんなに小学生たちの平和を乱したいのか。


バスから飛ぶように降りてゆくクラスメイトたち。

そんな光景をぼんやり見ている。


「どうしたよ?行かないのか?」とフテブテ君が声をかけてきた。


「え?ああ、ちょっとバス酔いした」と適当に答える。

「パンも食ってないもんな。じゃ休んでた方がいいな」と言ってバスから出てゆくフテブテ君。


僕は座席に深々と座り直し、目を閉じる。

中途半端、か。
さっき女教師に言われたことが頭の中で反芻する。

3ヶ月前までは何も疑問なんてなかった。

ただ全てくだらないと思っていた。


でもそうではなかった。



少し眠ってしまったらしく、ドヤドヤとした声が聞こえてきて目を覚ました。

フテブテ君の他数名がバスに乗り込んできた。

みんなビショビショに濡れていた。

ここのアスレチックには池にアスレチックが設置された水上にコースがあり、失敗するとビショビショになるのだ。こいつらのように。


「ちょっとビショビショじゃんよ」と僕は驚いた。

「こいつが押すんだもんよ」

「なに言ってんだ、おめーが押したからだろ」

とみんなでヤイヤイ言い合っている。


ふとブルーハーツのTRAINーTRAINの冒頭が頭を過ぎった。


ここは天国じゃないんだ
かといって地獄でもない
いい奴ばかりじゃないけど
悪い奴ばかりでもない


「まだ気分悪いか?」とフテブテ君は僕に聞いた。

「うん、もう大丈夫」と僕は答えた。


ここで終わってくれれば大団円なのだが、終わらないのがこの学校。

みんなで他のクラスメートたちが遊んでるところに向かっている途中、事件は起こった。

ふざけ半分で歩いていたフテブテ君が他のクラスの生徒とぶつかった。


その相手が悪かった。
ほとんど学校行ってない僕でも知ってるワルだ。

なんとかフトシ君。
暴飲暴食とかいう暴走族の頭という話だ。


フテブテ君とフトシ君はいきなり臨戦体勢。

お互いの胸ぐらを掴み合ってメンチ切ってる。

ちょっ待った待った!
僕は2人の間に割って入った。

「ちょっ、待って!こんなとこで喧嘩すんなって」

だがフトシ君は僕を押しのけ、再びフテブテ君の胸ぐらを掴む。フテブテ君も応戦する。

次第にギャラリーが増えてくる。やばい。

僕はクラスメートに先生呼んで来るように頼んだ。

そして僕はフトシ君を後ろから羽交い締めにし、そのまま背中から倒し、すぐさまフテブテ君を押さえた。

「むやみやたらな暴力はよせって言ったよな!自分が後悔するんだぞ!」


ようやくフテブテ君が落ち着きを取り戻してゆく。


「コラッ!なにやってんだ!」

クラスメートが呼びに行った先生もようやく来たか。

「おい、お前!何やってんだ!何ケンカしてんだ!おい!」そう言って先生は僕に詰め寄ってきた。


えぇっ!俺が?
「いや、俺はケンカ止めてたんですよ!」と僕は抗議した。

「嘘つくな!ケガしてんじゃねーか!」

ハッとして、さっき倒したフトシ君の方を見る。

そこには腰を押さえて苦悶しているフトシ君の姿があった。


そして僕は2回目の停学を受けることになったのである。

ハイスクール落ガキ「社会科見学1」

2010年01月11日 | 思い出
なんだか今までの2週間あまりが嘘のように、いきなりクラスに溶け込めてしまった僕。


これで休み時間に寝たくもないのに寝たフリしなくて良いんだ。


いやぁ、停学もなってみるもんだね。


そして相変わらずなフテブテ君とアホな話しをしながら、僕らが社会科見学に向かった先は・・


とあるパン工場。



あのう、ここ小3の社会科見学で来たんですけど。


「なぁ」と僕はフテブテ君に言った。「俺ここ小学生の時に来たわ」


「マジか。パンもらえた?」とフテブテ君。


そうして200人近い高校1年生相手に、やけにテンションの高い工場長がパンを作る過程を説明してゆく。


もちろんほぼ誰も真剣に聞いてやしない。

そんな僕らの態度を見て担任の女教師が吠える。

「ねぇ!あんたたちっ!ちゃんと工場長の話しを聞きなさいよ!!ほら!イースト菌よ!ほら見なさいよ!あんたたちィィィ!」


いちばん工場長の邪魔をしてる女教師。


 
そうこうしていると、遥か後ろに他の学校からの見学生が見える。

そう、たくさんの小学生たちが。


見学時間をズラしてるものの、やはり折り返して戻る時に接近してしまう。


明らかに我々の個性的な容姿を見て恐怖を抱いてる小学生たち。そして完全に警戒体勢に入る引率の先生たち。


恐怖、警戒、敵意、蔑み、そういった目で見られるのは日常茶飯事だし、もちろん自業自得だし、もうとっくに慣れてしまっているが、こういう風に団体として見られると少し恥ずかしいと思った。


そんな雰囲気のなかフテブテ君が問い掛ける。

「なあ、さっきから気になってんだけど」

まぁこうも悪人扱いされると気になるよな。

「パンもらえんのか?」

おまえもう帰れ。



もはや見世物と化して出口を目指す。

女教師が近くに来た時に聞いてみた。

「なんでパン工場なんですか。小学校で来る場所ですよ」


「小学生でパン工場なんて、むしろ早いと思うわよ。小学生でパン作ってる過程見たって、美味しそうだとかそんな客観視しかできないでしょう。でもアンタたちくらいになれば役に立つわよ。パン工場で働くときとか。」


働かないから。


そうしてようやく出口に着く。

出口では工場長が満面の笑みで生徒たちにパンを配っている。

フテブテくんもパンを貰ってはしゃいでいた。

そんな光景をなんとなしに見ていると、女教師が僕の横に立った。

「アンタ小学生の集団から見られて恥ずかしいと思ったんでしょう」

「そんなことないス」

「中途半端ね」と女教師が言った。

「中途半端?」と僕は聞き返した。

「そうよ。少なくとも他の連中は恥ずかしいなんて思ってないわ。それが正しいとは言わないけどね。ただ悪いとさえ気付かず変えない人間、悪いと知りつつ変えない人間。私は後者の方が人間として悪いと思うわ。まぁ少なくとも後悔しないように今を生きなさい。」


痛いとこをつきやがる。
半年前なら疑問にさえ思わなかった。

自分の弱さ、自分の愚かさ大人の強さ。

それを、とある先生が僕に諭してくれたのだ。

先生…


「おーい」とフテブテ君が僕の名を呼びながら近づいてくる。

「ほら」と言ってフテブテ君は僕にパンを差し出した。