鮮烈な赤。
何か良い展覧会がないかとネットで偶然見つけた『鴨居玲』展。以前、テレビで見た時から一度本物が観たいと思っていたので少し前に行ってきました。
看板に使われている絵は赤がベースですが、暗闇にぽつりと人間がたたずむ、その存在の緊張感が印象的な絵を多く描いた画家です。
人間のゆらめく感情の一瞬をぐいとつかみ取り(デッサンの達人です)、それを濃密に表現できるのは稀有な才能だと思いますし、実際、絵はどれも素晴らしかった。正直、こうして写真で見るより本物は数百倍素晴らしいです。
展覧会は3つの部屋+デッサンに分かれています。最初が習作や抽象画を含む初期の作品、2つめがヨーロッパ時代の作品がメイン、そして最後が自画像です。初期の作品も針のように細い羽毛の鳥とか真っ赤な画面とか印象的な作品がありますが、圧巻はやはり2つ目のヨーロッパ時代です。自画像の頃になると、痛々しさが先に立って個人的には作品を鑑賞する心持ちがちょっと違ってきてしまいました。デッサンは息を止めて一気に描いた空気が迫力あります。
絵を拝見する限り、実存的な事象には興味がなく、とても繊細で感受性が鋭く、自意識が強い。ご自身も含め、人間の内側に湧きあがる様々な感情(特に負の部分)が見えすぎて、現実世界に適応するのは難しかったんじゃないでしょうか。
そういう人が生きて行くのは苦しいですね。描かれた人物は誰もが息苦しいほどの思いを抱え込み、虚無の暗闇で圧倒的な生の重みを感じさせますが、あまりにエモーショナルで、こちらの身体や精神に不調があると、闇の向こうに引きずり込まれそうな恐怖があります。
後年は心臓が悪く何度も自殺未遂を繰り返したそうですが、こんな絵を描いていたら自家中毒になって壊れてしまうよなあと思いました。まあ、絵が先なのか、病が先なのか、作品を観ただけでは判然としませんけれども。
あまりにも凝縮した感情を突きつけられ、人間が負の感情を持つのは何故なのかと考え込んでしまいました。
鴨居玲は、お兄さんを戦争で亡くしているので、その後の人生でも、どうしてもそうした負の感情を手放せなかったのかもしれません。見ないふりができず凝視せざるを得なかったのが、芸術家の辛いところです。
晩年の大作。こんなの描いたら、あとはもう何にも出てこないですよね・・・。
美術館には↑上の絵を描いている鴨居氏と、愛犬のツーショットの写真が展示されていましたが、アトリエの鴨居氏は意外なほど穏やかで普通の表情をしていて、こんな時間をもっとたくさん持てれば、自ら命を絶つこともなかったのではと思ったりしました。
でも、はたからあれこれいうのは簡単で、当事者にしてみればとてつもなく困難なことってありますよね。それができれば、苦しまない代わり、作品も生まれなかったでしょうし。
・・・なんだか空気が沈滞してしまいました^^;
基本的にのほほんな人間すら考え込ませる鴨居玲。恐るべき求心力です。
ちなみにご本人はものすごくカッコイイ方です。アルマーニスーツにチーフとか似合いそう
享年57歳。
土曜日だったのでそれなりの人出でしたが、「ぐりとぐら展」にはかないません。もったいない。もっともっとたくさんの人に見て欲しいです。
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