徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

真の“ヒューマンエラー対策”とは

JR西日本での悲惨な人災や、マスコミが騒ぎ立てる航空関連のインシデントを受け、こんなことになったようです。

人為的事故多発、国交省に「ヒューマンエラー」対策委 (読売新聞) - goo ニュース

国土交通省内部にこのような対策委員会を作ってどれだけ効果があるかは甚だ疑問といわざるを得ません。
現在の航空・鉄道事故調査委員会も国土交通省に所属しているからです。

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話を航空関係に限りますが、航空法をはじめとする各種規則・法令を策定しているのは国土交通省です。法を策定している省庁の下部組織として事故調査委員会がある訳であり、至極当然の流れとして、事故調の原因究明の礎として「法に違反しているかどうか」の意識・意図が存在してしまいます。「法に触れる」という言葉を聴いて真っ先に駆けつけるのは、検察であり、法的責任の所在を明らかにせんと躍起になります。
このような環境下では、事故に関与する当事者は「犯人扱い」されるのを恐れるあまり、極めて重要な事実に関して「黙して語らず」となってしまいます。そんな状況から半ば捏造された上辺だけのお粗末な調査報告書が、事故調査の命題である“再発防止”に役立つとは到底思えません。

事故調査は、中立的立場の第三者独立機関が行うべきです。
すでに世界の趨勢はとっくにそのようになっており、これだけ航空機が飛び交っている国で「責任追及」をさも当然のように行なって偉そうにしているのは日本くらいでしょう。
全くもって恥ずかしい限りです。

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アメリカ合衆国で航空事故が起こると、NTSB: National Transportation Safety Board (国家安全運輸委員会)という独立した組織が事故調査を行ないます。このNTSBは事故調査(航空だけだなく鉄道、道路、海上と運輸全般です)に対して全面的な権限と責任を有し、警察は現場保存の必要最小限の行為しか行ないません。
さらに米国では刑法上、日本ではおきまりの過失致死傷害罪の規定がなく、航空事故の関係者が犯罪容疑に問われた事例はありません。事故に対する免責条項がある訳ではないのにです。

※ここで、殺意があって故意に起こした事故や、飲酒が原因で起こした事故と混同しないで下さい。そのような場合には当然のことですが刑事責任が追及されます。

NTSBは司法に対する関係も独特です。事故調査報告書(調査過程の資料も含む)の記載内容から起こされた損害賠償訴訟において、証拠として認められないし、そもそも報告書を使用することすら出来ません。
よって、裁判等に事故調査報告書を使うことができません。その訳は、仮に使用を認めると、当事者との利害関係に利用され、公正な事故調査活動が出来なくなるからです。

このような独立した機関であるが故、再発防止のための建議・勧告が屈託なく行なえるわけです。NTSBでは既に数千を超える勧告を出しています。その対象で一番多いのは FAA: Federal Aviation Administration (連邦航空局)です。

前述したように、日本では事故調査委員会は国土交通省に属する一機関です。そこにある種;致命的とも言える;自己矛盾が生まれます。
国土交通省は、安全について企業を指導・監督する立場にあります。某社など、航空局長自らオペセンを土足で踏み滲まれていますし、別の社に対しては“免許停止処分”などを軽々しく行なっている省庁です。事故調が国土交通省が行なっている指導方針や認可している企業のオペレーション・マニュアルに誤りや不十分な点を発見したとして、身内の国交省に対して勧告ができるのでしょうか。



民間航空の世界では、ICAO Annex 13 (国際民間航空機関 条約付随書第13)はあまりにも有名です。

【3.1 調査の目的】
事故またはインシデント調査の唯一の目的は、将来の事故またはインシデントの防止である。罪や責任を問うのが調査の目的ではない。

【5.4.1 調査実施国の責任】
勧告-罪や責任を科す目的のいかなる司法・行政上の手続きも、本付随書の定める規定に基づく調査とは分離されるべきである。



“ヒューマンエラー対策”に造詣の深い方々が委員として対策を練られるのでしょうが、先ずは、当時の運輸省と検察庁が取り交わした「覚書」の撤廃をしていただきたい。
『事故調査が犯罪捜査に支障を来たさないようにするものとする』


刑罰を加えて「再犯(再発)」を防ぐ、というお粗末な考え方をこの国の一部のお役人連中から払拭させない限り、偉い先生方が“ヒューマンエラー対策”を高尚に語っても無意味ではないでしょうか。

我が国は、それほど恥ずかしい事故調査後進国なのです。



余談ですが、これまでの事故調査報告書で個人的に評価できる勧告は、名古屋空港で発生した中華航空機事故でメーカー(エアバス・インダストリー社)に対して行なった是正勧告くらいだと思います。あの調査報告書は、何度も何度も読み返しました。
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