このような疑問、質問と接することがしばしばあります。以下、現段階で私が持っている考えです。
好きでやっている時に、こんな疑問は湧きません。苦しくなった時、あるいはクラシック以外の音楽がもっと好きになった時、なぜこんなに苦しい思いをして勉強しなければならないのか、と思うことはあるでしょう。世間で流れている音楽はクラシック音楽以外のものが圧倒的に多いし、クラシック音楽を続けていたからといって、高収入が約束されている訳でもないし。高収入どころか、収入そのものの見込みさえあやしいのが実情です。
私自身、クラシック音楽以外にも好きな音楽はあるし、それはそれで生きていくには欠かせない存在です。それでも勉強するならまずクラシック音楽だし、それだけの価値があると私は信じています。
なぜかというと、世の中で楽しまれている音楽のもとをたどっていくと、9割以上はクラシック音楽に行きついてしまうからです。
「音楽の3要素」という考え方があります。「メロディ」「リズム」「ハーモニー」です。このうち「メロディ」と「リズム」は世界各国の音楽にありますが、「ハーモニー」はヨーロッパで生まれたものです。詳しく述べるとバロック音楽の時代に成立しました。現在聞かれている音楽でハーモニーのつかない音楽は、多分1割に満たないでしょう。
別の説明もできます。例えば現在巷にあふれている音楽には、ドラムセットが使われています。この役割は、周期的なリズムの繰り返しを人間が心地よいと感じるからにほかなりません。
ドラムセットを最初に使った音楽はジャズです。ジャズのドラムセットの起源は軍楽隊の太鼓と「ラグタイム」というジャンルのピアノにもとめられるでしょう。太鼓もピアノも周期的なリズムを奏でていました。太鼓のリズムは信号音的な役割もありますが、ピアノのリズムは音楽の推進力としてのものです。それはショパンのワルツやマズルカと同類で、さらにさかのぼるとバロック音楽のチェンバロ(通奏低音)にたどりつきます。
さらに「低音(ベース)」の上に成り立つ音楽、という構造もやはりバロック音楽がオリジナルで、ジャズ、ロックから日本の演歌に至るまで共通のものです。
このように、世界中の人々が聞いている大半の音楽の原型は、ほとんどバロック音楽時代に形成された訳です。この大本を知っておけば、様々なことに応用がきくと思いませんか?
クラシック音楽そのものを聴く人がさほど多くないとしても、人類に対する影響ははかりしれないものがあります。その昔のギリシャ時代の「リベラルアーツ」の考え方を持ち出さずとも、クラシック音楽を勉強することは充分に価値あることだと思います。