井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

おけいこニストのための四大協奏曲

2010-09-04 09:01:38 | 梅鶯林道

ずっと梅鶯林道のことを考えているのだが、そうするとなかなか結論の出ない問題が多々あることに気づく。

ちっとも新しくない「新しいヴァイオリン教本」、その5巻までは、ステップ・バイ・ステップで編集されており、とても使いやすい。ただ6巻との間に少し段差を感じる。

鈴木の教本は7巻と8巻の間に段差があるとは良く言われる。が、いずれにしてもモーツァルトの協奏曲で終わり、にはならないケースが大半を占めるだろう。実際、スズキ・メソードは、その後の曲目のコースがあって、メンデルスゾーンが最終教材だと聞いた。(チャイコフスキーをやっていた人も聞いたことはあるが。)

モーツァルトの協奏曲はオーケストラの入団試験にもよく課せられる。モーツァルトの協奏曲が弾けるのは、ヴァイオリニストとして最低条件、あるいは「ヴァイオリンが弾けるというのはモーツァルトが弾けるくらいのことだ」と見なされていることに異論はない。

では、その後はどうするか。現在、日本で一般的に取り上げられる楽曲に、以下の4曲がある。

・ブルッフ「協奏曲第1番」

・ラロ「スペイン交響曲」

・サン=サーンス「協奏曲第3番」

・メンデルスゾーン「協奏曲」

これら4曲は小学生で弾く人もいるし、音楽大学で勉強する人もいる。このあたりがまともに弾ければ、専門家並と言っていいだろう。換言すれば、そのくらい難しい。モーツァルトの次に挑むには、これまた段差を感じざるを得ない。

その間に別の曲をはさむことが考えられる。それが、以前に述べた「梅鶯林道・1級」から「初段」あたりに相当する曲になる。

実際、そうされている実例を見聞することは少なくない。ただ、それでうまくいっている例は、少ないようだ。

上述の4曲に共通した特徴がある。それは、左指を速くうごかすパッセージが比較的長く続く部分を持っていること。そして、一つの楽章の演奏時間が長い。小品の経験を積み重ねても、それに対応する力は身に付かないだろう。

では、どうすれば良いか?

やはり「スケール」と「アルペジオ」の練習ではないか、と思うのである。特に「アルペジオ」である。

モーツァルトの協奏曲にもスケール、アルペジオは含まれている。だから、これを弾く限りにおいては、それほどの重要性を感じなくても無理はない。しかし、この段階で大量のアルペジオが弾けるようにしておくと、上述の4曲にスムーズに移行できるのではないだろうか。

ブルッフには連続の三重音、コーレ、フェッテ、急速なアルペジオ等、白い本の5巻までや鈴木にはほとんど出てこなかった技術が頻出する上に、ロマン派特有のねばりも要求される。これを、他の曲で補うことを考えるより、アルペジオをたくさん練習しておく方が、はるかに実際的だと思う。

そろそろモーツァルトの協奏曲=そろそろアルペジオをたくさん、を提言しておこう。


梅鶯林道はなぜコンチェルトばかり?

2010-04-18 01:00:43 | 梅鶯林道

 ピアノの友人が,かれこれ20年は言い続けている。「ヴァイオリンの人達が,コンチェルトばかり弾き続けるのは,絶対に良くないと思う」

 20年間,主張し続ける人はご立派!

 確かに,ピアニストはみんなソナタで育つ。それによって,音楽というのは,どのように組み立てていくものなのか,体でわかる訳だ。ある年の学生音コンは,しっかりそれが試された良い機会になった,と以前にも書いたことがある。

 片やヴァイオリン,さあ,この駆け上がり,行くぞ,はずすなその音,よし、決まった,次は重音,こっち高め,こっち低め,よーし・・・とスポーツだかサーカスだかと見紛うばかりのことのみ考えている時間が長い。たまには(?)音楽作りも考えたいものであるから,かの友人の説は正論である。

 で,時々小学生同士の二重奏を聞く機会があり,この問題とは正面から向き合うことになる。なぜコンチェルトばかりなのか,一番考えられる要因は,ソナタでは演奏技術の習得が効率良くできないことだろう。

 あのパールマンが言っていた。
「ピアノは押したら音が出るから,すぐ解釈の問題にいける。ところがヴァイオリンときたら,音が出るまでにいろいろやらなきゃならないから,なかなかそこには到達しないんだ。」

 どんな楽器でも,最初に「楽器を鳴らす」訓練から始まる。鳴らないことには始まらない。コンチェルトは「鳴らしまくる」形態だ。この訓練にはうってつけである。

 これがニ重奏ソナタになるとヴァイオリンがピアノの伴奏をする箇所も出てくる。フォルテも弾けない人がピアノで弾くなんてことをしていたら,楽器がいよいよ鳴らなくなっちゃうよ,と指導者は心配してしまう。

 なので,バロックのソナタならば伴奏部分がないのでOKとなる。ヘンデルが重用される所以である。

 ならばバッハもOKだろうと,小学生に弾いてもらったことがある。結論はNG。
 できなくはないが,かなり難しい。バッハのチェンバロとのソナタは,いわゆるバッハのポリフォニー楽曲で,始まったら最後までテンション張りっぱなしなのである。小学生には過酷だった。
 これがヘンデルだと,しばしば中断があるのでOKとなる。

 同じような理由で,ベートーヴェンも向かない。フレーズの長いものが多く,仮にフレーズは長くなくても,たたみかけるように続くベートーヴェンの音楽は途中で息つぐ暇もなく,やはり小学生には無理がある。

 という次第で,フレーズの長い曲が多いために子供は敬遠,これが二つ目の理由。

 ではフレーズの短いモーツァルトはOKか?

 ここで三つ目の理由が浮上する。ニ重奏ソナタは相手あっての物種,一人では学習できない。殊にモーツァルトはオブリガートつきピアノ・ソナタが大半を占めるため,ピアノ同伴でないと音楽作りの勉強はできない。
 モーツァルトほどではないにせよ,他の作曲家の作品もピアノ無しでは音楽にならない。このあたりが,コンチェルトやバロックのソナタと大きく違うところだ。

 とは言え,音楽作りの学習も取り入れたいからドヴォルジャークのソナチネくらいやっても良いような気はする。大人の学習者であればソナタもお薦めできる。

 昨日会った小学生「将来の目標は『メンコン』です!」と言っていた。ソナタがやりたい訳ではない,というのも一般的な姿であろう。メンデルスゾーンに早く到達するには,ソナタなどで時間を取られたくない,という本音もあるかな?

 とにかく上述のような理由が確実にあるのだから,堂々とコンチェルトや小品ばかりやり続けるとしようか。


梅鶯林道初段

2010-02-14 21:51:26 | 梅鶯林道

一番わかりやすい基準はスピッカートができること。分数楽器では弓の重さが足りず,本格的なスピッカートは期待できないため,一応はフル・サイズの楽器が演奏できる人を対象に考えている。

ここからが「有段者」なので,以下の訓練が必須。

・重音の音階
・マルトレ,フェテ,コーレなどの「槌技(つちわざ/造語です)」ができる。

これらの訓練は,今後しばらく必要だし,重音の訓練は一生ものだ。そのつもりでいていただきたい。

(で,ここまで書いて気づきましたが,これ以外にも訓練しておくべき技術がいくつもあったので,1級から5級に関する記事も「ひっそりと」補筆,訂正してあります。)

代表的なレパートリー
・ベリオ:バレエの情景
・ヴィターリ=シャルリエ:シャコンヌ
・ブロッホ:ニーグン
・バルトーク:協奏曲第1番
・ハチャトゥリアン:協奏曲
・バッハ:無伴奏ソナタ第1番,無伴奏パルティータ第1番


梅鶯林道・跳弓階段

2010-02-04 21:11:53 | 梅鶯林道

ヴァイオリンの学習方法を考えたり,そのレパートリーを整理したりすると,スピッカートのことを考えざるを得ない。
オーケストラを演奏する時,重音は弾けなくても何とかなる。複数の奏者で手分けして弾けるからだ。でもスピッカートは他の手段で代用し難い。職業オーケストラの場合,スピッカートができなければ入団はできない。

そう,どこかでできるようにならなければならない技術なのである。そのためには,最低数ヵ月,場合によっては数年をかけることになる。
その練習は開放弦でもできるし,練習曲を使うこともできる。

しかし,開放弦で数年間スピッカートの練習は厳しい。
そこで考えた。
レパートリーを一望するとスピッカートやそれに似た技術(スタッカート,リコシェ,ソーディエ等)を使わなければ弾けない曲というのが結構ある。これらを難易度順に並べて,エチュードとして使ってしまうのである。つまり他の楽曲と並行して学習する形をとる。そして,完全にはスピッカート等ができなかったとしても,他が大体できていれば次に進んでしまうのである。これを2年間やれば,大抵弾けるようになるのではないだろうか。

スタートは梅鶯林道2級,楽器のサイズは3/4になってから,を標準と考える。スピッカートはフル・サイズの弓でないと労力ばかりがかかってしまう代物なので,それ以前に練習するのは筆者としては懐疑的である。

題して《跳弓階段》。怪しげなラテン語で「グラドゥス・アド・スピッカートゥス」としようかと思ったが,ここは梅鶯林道なので,やはり日本語がふさわしかろう。

1. キュイ:オリエンタル
(アップのリコシェで,まず慣れる。「演奏会用ヴァイオリン名曲集vol.2」に収録。)

2. クライスラー:「シンコペーション」 または 「道化役者」」
(元で跳ばすことに慣れる。どちらかで良いだろう。「クライスラー ヴァイオリン名曲集1」に収録。)

3. チャイコフスキー:メロディ
(ちょっと息抜き。アップのリコシェ?or スタッカート?がある。「演奏会用ヴァイオリン名曲集vol.5」に収録。)

4. モーツァルト=クライスラー:ロンド ニ長調~ハフナー・セレナードより
(スピッカートができなければデタッシェで弾いても音楽にはなる。)

5. クライスラー:シチリアーノとリゴードン
(同上「クライスラー ヴァイオリン名曲集1」に収録。)

6. パガニーニ:無窮動(常動曲)
(デタッシェで弾くのだが,速く弾けばソーティエになる。アッカルドはクロイツェルの2番等を使う代わりに,これの最初のページを使うことを勧めていた。「クライスラー ヴァイオリン名曲集2」に収録。)

7. クライスラー:前奏曲とアレグロ
(スピッカートに移弦が加わる。このあたりの曲は【1級】のレヴェルと見なして良いだろう。「クライスラー ヴァイオリン名曲集1」に収録。)

8. チャイコフスキー:スケルツォ
(これはデタッシェでは音楽にならない。「演奏会用ヴァイオリン名曲集vol.5」に収録。)

9. ノヴァチェック:無窮動(常動曲)
(スピッカートにしたりデタッシェにしたりして変化をつける。「演奏会用ヴァイオリン名曲集vol.2」に収録。)

10. サラサーテ:序奏とタランテラ
(スピッカートとリコシェのオン・パレード。【初段】になって,跳ねる弓を徹底させるために使うと良い曲。)

以上10曲。ただし,現段階ではまだ「机上の(空)論」,今から実践していって,裏付けをとる「タタキ台」である。早速本日,うちの学生達に課題として提示した。(大学生になっても,スピッカートに関しては,まだ心もとない者もいるのが現実だ。)

ただ指針の一つにはなると思う。眺めているだけで,何だかできるような錯覚さえしてくる。さあ,がんばろう。