タイトルは、清水義範作の小説に由来する。小説の方は、中学生が英訳する時に使う、普段の日本人が使わない「変な日本語」しか話せないジャックとベティの物語。もうちょっとで恋物語になるかならないかの瀬戸際、滑稽で切ない、味わい深い作品である。それと同じ雰囲気を持つという訳ではないのだが、一部に重なるイメージもあり、タイトルを借用した次第。
この曲は、1990年、音楽の友社ホールで開かれた「リサイタルA」のために書いた、ピアノ伴奏付きのヴァイオリン曲である。ヴァイオリン曲を発表したのが初めてならば、リサイタルのために書いたのも初めて、取り巻く状況も「中学生の英語学習状況」と似たり寄ったりだった。
私には、当夜の聴衆が喜んで聞いたかどうかわかりませんでした。
しかし、何人かの人々は「おもしろかった」と言いました。
私は、それを聞いて喜びました。
しかし、私は大変疲れました。それは、自分で弾くための曲であるところのこの曲を作るのに時間がかかり、練習する時間が少なかったからです。
とても疲れたので、打ち上げでは、食べ物の名前がわかりませんでした。これはリンゴでしょうか、それともオレンジでしょうか?
少々誇張が入ってしまったが、それっきり弾きたいとは思わなかった曲である。ただ、リサイタルのプログラミングやスタイルに表れている工夫を知ってもらいたくて、何人かの人々(some people)には録音を聞いてもらったことがある。
その中に、群馬交響楽団のYさんという方がいらして、この曲をとても気に入って下さり、ご自分の演奏会で何回か弾いてもらえたことがあった。これが10年ほど前だっただろうか。
一方、数年前に紹介されたのが「デュオ三木」というご夫妻である。ヴァイオリンのことをよくわかって書かれている作品が少ないことを嘆かれているから、それならば井財野作品に良いものがあるのではないか、と仲介に立った方が考えて下さったお陰で、知り合いになれた。
そして「嬉遊笑覧」などと一緒にお渡ししたのがこの曲。そうしたら、これのみが広島県の福山市周辺のみでヒット曲になったという次第。嬉しいやら恥ずかしいやら、である。
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