長崎県のユニークな点はいろいろある。海岸線の長さが都府県一長く、見た目よりも県内の移動にかなり時間がかかる。さらに壱岐、対馬が長崎県になぜか編入され、お互いに(本土側も島側も)不便を感じながらかれこれ一世紀以上の時間が流れている。
その中でセカンドシティが佐世保であるのは、多分衆目の一致するところであるだろうが、他の核になる大村市、諫早市、島原市は単純なサードシティではない。
大村市と島原市は城下町である。それがどうしたと言うなかれ。これは住めばわかり、住まないとわかりにくい、独特の住民感情をひきおこす街の構造であり、全国共通のものである。
一方、長崎市も佐世保市も城下町ではない。どちらも港町で平地が非常に少ないという共通点がある。長崎は誰もが知る、江戸時代唯一の海外への窓口だったし、佐世保は明治に海軍がおかれて、軍港として発展をした。要するに出入りの多い土地柄で、九州の中ではよそ者に比較的寛容なところである。(城下町は寛容ではないのだ。)
そして、長崎市は言わずと知れた観光都市。ナガサキの名前は世界に知られているし、観光客はひっきりなしに全国から訪れる。この魅力は大したもので、今の時期は特急かもめも満席で走る。
だが、佐世保市民はあまり長崎市に行かない。行くなら福岡市。なぜなら長崎市に行くのに2時間弱かかり、2時間かければ福岡市に行けるからである。一方、長崎市民はと言うと、やはりそうそう佐世保市に出かけるわけではないが、大昔には米軍艦エンタープライズが入港している、今でも米軍基地がある、そんなこんなで「佐世保は派手だなぁ」という印象がややあるようだ。県庁所在地の人間が、このようにやや憧憬を以てみる都市は、やはり珍しい。
さらに音楽文化面では、以前から佐世保の方に分がある。長崎市には「公会堂」と「市民会館」があり(普通はどちらか一つだ)、しかも向かいあって建っている。この二つの音響は、全国の市民会館の中で最低レベルの音響であることを、私は大学生の時に知った。「音響学」という講義の中の資料に掲載されていたのである。
一方、佐世保に建てられた佐世保市民会館はコンクリート打ちっぱなしの壁面を適度に使ったもので、多目的の割には音楽的な音響がほど良い感じ。合唱や吹奏楽をやっている長崎市の中高生は、佐世保に演奏に行くたびに、ため息をついたものだった。
時代は平成になり、長崎市には長崎ブリックホールが建てられ、ようやく人並みのレベルに達した(かに見えた)。そして佐世保にも長崎県の文化ホールという意味でアルカスSASEBOというものが建てられた。木を割って作ったブロックのようなものを壁面に積み上げ、全体は船の形をイメージしてあるユニークなデザインだ。私はこのこけら落としに参加したのだが、こちらは九州でベスト3には入る、素晴らしい音響を持つにいたった。
という次第で、いつまでたっても佐世保が優位というのが変わらないのが長崎県事情である。
ちなみに佐世保には佐世保市民管弦楽団があり、時々私も関わらせてもらっている。長崎市には長崎交響楽団とフィルハーモニックオーケストラ・長崎の二つのオーケストラがある。ほか県内には諫早市に諫早交響楽団、大村市にOMURA室内合奏団があり、大村のものはプロフェッショナル集団。だが、佐世保でも諫早でも、他の3団体のメンバーが散見されるのはご愛嬌といったところか。