安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

ART PEPPER [虹を求めて]

2015-06-15 21:32:12 | 読書

内藤遊人さんの編集で、1992年立東社から、ジャズ入門シリーズの一冊として発行された本です。当時、書店で買おうか迷い、結局書棚に戻しましたが、最近、中古本で購入できたので、早速読んでみました。入門とあるとおり、アート・ペッパーの生涯や音楽を概観できるコンパクトな本です。付属のCDは、1976年7月東京郵便貯金ホールにおけるライブ録音(2枚のLPとは別テイク)で、出版当時、ローリー夫人から提供された音源を使っています。

   

内容(目次)は次のとおり。

マルタが語るアート・ペッパー
アート・ペッパー・ストーリー
アート・ペッパー・インタビュー
サクソフォン・ファンタジー
  サクソフォン・ヒストリー入門
  名盤ベスト・セレクション
CDパート・ライナー・ノート
  1979年日本の夏のアート・ペッパー
  収録曲目紹介
スコア解説 (「Over The Rainbow」と「You'd Be So Nice To Come Home To」)
ディスコグラフィー 

以下、目次にそって、印象に残ったところを感想とともに記します。

マルタ(アルト・サックス奏者)が語るアート・ペッパー

・ペッパーとの出会いについて
『ジャズ喫茶で、ウェスト・コーストっぽい軽やかさで、しかもしっかりビ・バップしているアルトをきいたんだ。すごく魅力的でね。それがアート・ペッパーだったんだよ。』

・ペッパーは、ウェスト・コースト・ジャズ入門に最適ではないかという問いに対して、聴く方はそうかもしれないが、
『ペッパーという人はコピーしてもつかみどころがない人だね。・・・・鋭い感性の持ち主で、その場その場のノリで違うんだよね。だから、ペッパーのアドリブを譜面化して吹くっていうのは、すごく難しいんだ。』

・ペッパーの魅力を一言で語ってほしいという問いに答えて、
『チャーリー・パーカー的なビ・バップとウェスト・コースとの軽さがブレンドされた独特のプレイ、ということだろうね。』

日本を代表するアルト・サックス奏者の一人であるマルタさんのミュージシャンの立場からの発言ですが、簡潔にペッパーの魅力、個性を語ってくれています。

ペッパー・インタビューは1978年に行われたもので、ジャズライフ誌の同年5月号に掲載されたものを転載したものです。

・ウェスト・コースト派のミュージシャンと呼ばれることについては、どのように受け止めていますかという問いに答えて、
『ボクは、別にウェスト・コースト派という意識を持っていないんだ。ニューヨークの連中と演奏したとき、なにひとつ違和感のようなものを感じなかったし、連中もボクと同じような演奏法をしていたしね。』

・コルトレーンの影響について、
『ボクが影響をうけたミュージシャンといえば、真っ先にコルトレーンをあげるよ。・・・・彼のアプローチの仕方、コードの使い方、フレイジング、そして、フィーリングやサウンド自体まで、とにかく多大な影響だった。・・・・コルトレーン以外に強いていえば、ズート・シムスだね。』

ペッパー本人の率直な発言だけに間違いないのでしょうが、そこまで強く影響を受けたというのには、ちょっと驚きました。 

   

(1950年代の写真。文中から)

スコア解説「ユード・ビー・ソ―・ナイス・カム・ホーム・トゥ」

採譜と解説は、北原英司さんによるものです。北原さんは、コピー譜には、D♭音が頻繁に使われていて、ブルー・ノートを多用していることを指摘しています。そして、 こういうフレイズは、他のウェスト・コースターにはない黒っぽさを感じさせるが、例えば、ジャッキー・マクリーンにこれを吹かせると、もっとアーシ―で黒っぽくなるとして、ペッパーがそこまで感じさせないのは、おそらく音色とリズムの乗り方のせいだろうと解説しています。

また、繊細なヴィブラート、強いタンギングとソフトなレガートとのダイナミクスの落差、サブトーン、これらのニュアンスが黒人ではないペッパーの個性であり、かつウェスト・コーストの中でも際立った独特のスウィング感を醸し出しているのだと記しています。

マルタさんと同じ趣旨のことを書いていました。僕は、ペッパーマジックと勝手に名付けているのですが、北原さん指摘のダイナミクスは、たまらない魅力です。アルバム「Meets The Rhythm Section」をはじめ、とりわけ50年代の録音には、そうしたスリルが詰まっているように思います。

ディスコグラフィーを眺めていると、持っているものも多いのですが、新しいものを中心として、聴いてみたい作品がいくつもあって、ペッパーに対する興味が、再び湧いてきつつあります。付属のCDの方も、フリ―キ―なトーンを吹くところはどうかと思いますが、健在ぶりを伝える嬉しいものでした。

上記の本に付属している1979年の来日ライブCDに続いて、1977年4月5日に録音されたペッパーの初来日をとらえた「Tokyo Debut (邦題は、ファースト・ライブ・イン・ジャパン)」(Galaxy)も聴いてみました。カル・ジェイダ―・グループに加わっての来日でしたが、お客さんはペッパーに対して盛大な拍手を送っています。