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写真とコメントで紹介する旭川の郷土史エピソード集

小熊のアイヌ伝説&北修の挿絵

2019-03-12 20:00:00 | 郷土史エピソード

少しご無沙汰をしていました。
今回は、久々に一般的な郷土史エピソードをお届けします。
とはいっても、登場するのは、旭川歴史市民劇の主要登場人物、このブログでもおなじみの詩人・小熊秀雄と、画家・高橋北修です。
旭川時代の小熊は、勤めていた旭川新聞にたくさんの詩や散文を掲載しています。その中に本人が聞き取りをもとに書いたとみられるアイヌ民族の伝説があります。
その伝説には、いくつかの挿絵が添えられていますが、ほとんどは当時、小熊と親しかった高橋北修が手掛けています。


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まずはこちら。



画像①小熊秀雄「熊と愛奴の話 フレカパルスの踊」の記事


小熊が旭川新聞に掲載したアイヌ伝説のうち、「熊と愛奴(あいぬ=小熊の独自の表記)の話 フレカパルスの踊(おどり)」です。
挿絵がありますが、拡大するとこんな感じ。



画像②「熊と愛奴の話 フレカパルスの踊」の挿絵


右下に小さく「北修」のサインが入っています。
小熊の研究家でもある金倉義慧さんの著書によりますと、旭川新聞に載った小熊のアイヌ伝説は全部で4編。
大正13年4月に3編は集中して掲載され、残り1編は昭和2年に掲載されています。
このうち北修が挿絵を描いているのは、大正13年の3編です。

詳しく見ていきますと、最初に掲載されたのが、冒頭で紹介した「熊と愛奴の話 フレカパルスの踊」(4月7~11日付)。
次いで「愛奴伝説―キナの化けた話」(4月12~13日付)。
最後が「愛奴伝説―ツレップの精」(4月14日~16日付)です。
内容を紹介しますと、「フレカパルスの踊」は、熊の霊を送るアイヌ民族の儀式、熊祭りの踊りに加わる赤い小男を巡る物語で、紹介した北修の挿絵は熊を倒した若い酋長を描いています。



画像③「愛奴伝説―キナの化けた話」の記事


画像④「愛奴伝説―キナの化けた話」の挿絵



2編目の「キナの化けた話」は、ある日自分にそっくりな女が家に表れ、「自分こそ、この家の亭主の妻である」と言い張る不思議な物語です。北修は双子のような2人の女の姿を挿絵に描いています。



画像⑤「愛奴伝説―ツレップの精」の記事


最後の「ツレップの精」は、皮膚病の白癬(はくせん=しらくも)の頭をした女が、村々の酋長の家を回り、自分の白癬の粉を煮たスープを食べさせようとするやはり不思議な物語です。北修は、ウバユリの精であるこの女が酋長夫婦にスープを勧める場面を描いています。



画像⑥「愛奴伝説―ツレップの精」の挿絵


3編の伝説の中では、ワタクシは「ツレップの精」がお気に入りです。
前半は、村々を回るメノコの目的が分からず、不気味さがつのりますが、後半はなるほどそうだったのかと、膝を打つ展開となります。
ここでネタばらしをするのは控えますので、興味のある方はぜひ現典に当たってみてください。
金倉義慧編の「『小熊秀雄全集』未収録資料集-大正十二・三年の『旭川新聞』を中心に-」(旭川市中央図書館発行)に載っています(そのほかの2編は「小熊秀雄全集」に収録されています)。



画像⑦小熊秀雄


なお小熊と北修の交流については、様々なエピソードが伝えられていますが、2人が知り合ったのは、東京で絵の修業をしていた北修が関東大震災に遭遇して旭川に戻った大正12年の秋とみられます。
そしてこのアイヌ伝説と挿絵の新聞掲載の翌月、大正13年5月には、2人は連れ立って上京します。
この時の模様を北修はこう書いています。


翌年の春、私は小熊と一緒に上京した。彼には初めての上京であった。荷物の柳行李の蓋が持ちあがる程、いっぱい詰った詩稿。彼は一切の希望をこの詩稿にかけていた。おそらく彼は、ひそかにこの荷物に賭けていたのだろう。
私は職場の関係で、早稲田の都電の終点近くに、下宿を求めて彼と同居した。翌日から彼は、一日も休まず詩の原稿を抱えて歩きまわった。あと一週間もすれば一ト月も経つというのに、一篇の詩も売れなかった。彼の疲労は、日一日と目だってきた。私は、彼の気持ちをひきたたせるため、よく近所の酒場にさそった。話が議論になり、議論になればしぼんでいた花がひらいたように、彼の目は生き生きとしてくる。私の彼も一歩も譲らないから、最後はとっ組み合いのけんかになる。こんな日がよく続いた。その月も終わりに近いある晩、思いきって私は、彼に一時、北海道へ帰ることをすすめた。心細くなっていたやさきなので、彼は直ちに同意した。(高橋北修「小熊秀雄のこと」より)



画像⑧高橋北修


最後に、告知です。
以前にもご案内した旭川歴史市民劇の関連イベント「『語り』捲くれ小熊と北修」が今月23日(土)に行われます。
出演はワタクシと、高橋北修の長女でもある劇団「河」主宰の星野由美子さんで、星野さんによる朗読、ワタクシの歴史語り、そして2人の対談で、大正から昭和にかけての小熊と北修の交流について「語り」尽くします。
星野さんの朗読では、今回ご紹介した「ツレップの精」も披露しますので、お聞き逃しなく。
詳しい日時・場所などは以下の通りです。
皆さまのご来場をお待ちしています。


日時 2019年3月23日(土) 開場17:30 開演18:00
会場 まちなかぶんか小屋 旭川市7条通7丁目右10
料金 500円(事前申し込み不要。直接会場においでください)



画像⑨イベントのチラシ





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