本の出版に合わせてお伝えしているシリーズ「劇団『河』の軌跡」。
今回は、特別編です。
20日から旭川で始まった企画展と、23日に会場で行われたトークショーの模様についてお伝えします。
**********
企画展の入り口
企画展は文学資料館の一角で開催
今回の企画展「旭川・劇団『河』と『河原館』の20年」は、ご紹介している私の著書「〝あの日たち〟へ~旭川・劇団『河』と『河原館』の20年~」の出版に合わせて開いています。
本では紹介できなかった舞台写真やポスター、当時の台本、それにチラシやパンフレット、チケットなど、貴重な資料およそ200点を展示しています。
資料の中には、当時のポスターも
こちらは初期のパンフレット類
会場では、「劇団創設とリアリズム劇の追求」、「清水邦夫作品との出会い」、「『河原館』開設と多彩な交流」など、全部で11のテーマごとに資料を展示し、それぞれに解説も添えてあります。
下段は当時の台本や手書き原稿
祝日だった23日には、会場でトークショーを行いました。
出演は、司会役の私と、「河」の主宰者である星野由美子さん、看板女優だった伊東仁慈子さん(旧姓池の内)、河村直人の名前でやはり俳優をしていた細川泰稔さんの4人です。
トークショーの模様
星野さんは、今月満89歳になりましたが、さすがは元女優。張りのある声で、マイクは全く必要なし。
「芝居とは、身銭を切った客と役者との真剣勝負」というモットーを始め、今も変わらぬ舞台哲学の一端を披露してくれました。
また伊東さんは、身振り手振りで当時の舞台について振り返り、初舞台の「かさぶた式部考」や、ヒロインを演じた「幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門」についての話では、立ちあがって当時の台詞を語ってくれました。
星野由美子さん
芝居を見せてくれた伊東さん
この日は、全道的に風雪が強まるあいにくの天気でしたが、会場には50人もの方が詰めかけ、我々の話に耳を傾けてくれました。
終了後、何人かの方とお話ししましたが、仁慈子さんの演技まで見ることが出来てとても楽しかったとのこと、いろいろと準備をした立場としてはいっぺんに疲れが吹き飛びました。
またこの日は、NHKをはじめ、北海道新聞、旭川ケーブルテレビ・ポテト、それに雑誌の北海道経済が取材に来てくれました。
このうちポテトは、トークショーの模様を収録。
後日、そのまま放送してくれることになっています。
ポテトの契約者の方は、ぜひご覧ください。
塔崎さんの思い出も語ってくれた細川さん
企画展は、2017年1月28日(土)まで、旭川市の常磐公園の中にある旭川文学資料館で開かれています。
ただ年末年始や日曜と月曜、祝日はお休みですので、事前にご確認を。
会場は満席状態
それともう一つ、ご報告が。
日本を代表する詩人で、ノーベル文学賞の候補とも目される吉増剛造さんが、井上靖記念館主催のエッセーコンクールの表彰式と講演のため、18日に旭川を訪問されました。
実は吉増さんはかつて劇団「河」と交流のあった方で、「河」の舞台についての文章を新聞に載せたり、「河原館」で自ら詩の朗読のイベントをしたりしたことがあります。
その縁で、今回は会場で星野由美子さんとひさびさの対面を果たしたほか、私も著書に吉増さんの文章を引用させたいただいたお礼を言いました。写真はその時のものです。
久々に再開した星野さんと吉増さん
で、感激したのは、講演の冒頭で星野さんが会場に来ていることを紹介したうえで、「こうした本が出版されました」と言って、お渡しした私の本について、会場に集まった皆さんに紹介してくれたことです。
本をお渡ししたのは、一連のイベントが始まる30分ほど前、そのわずかの時間でざっと目を通してくれたのですね。
その優しい人柄に魅了されてしまいました。
ちなみに引用させていただいた「河原館」についての吉増さんの文章は、以下のようなものです。
雪をふみ、土蔵に入ると一瞬暗闇(やみ)に包まれる。白雪の輝く旭川の街路から一歩ふみこむと小さな、だが深い闇がある。しかも蔵の土間は(そこが舞台になるのだが)半地下の位置にあって入るとすぐに急な階段を降りて行かなければならない。(中略)
ここに一歩ふみこみ私は不思議な奈落にひきこまれるような体験をした。つまり劇的なものに不可欠の闇の垂直性が感じられて、その入り口に立っていたのだといいなおしてもよいだろう。(中略)
大地に根ざすといったり、土着、土俗、民俗といういい方を私達はすることがある。(中略)しかし土間に坐ってみた「河」の舞台の印象はそうしたいい方がもたらすものと異なっていて、地中深く埋蔵された穀物類を掘り出す作業に似ていた。その声もしぐさも舞台の底へ底へと、引きこまれてゆく。<北海タイムス・1978年3月28日付>
かつての「河原館」のあの空間が、詩人の言葉によって、目の前に浮かんでくるようです。
こうした優れた文化人をも魅了する力が、当時の「河」にはあったのだと、改めて感じます。
札幌の書店に並ぶ「〝あの日たち〟へ~旭川・劇団『河』と『河原館』の20年~」