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父の虐待 9歳少年、独りで児相へ

2006-04-12 11:52:45 | Weblog
 今朝の朝日新聞に、埼玉県川口市の9歳の少年が、父親の虐待に耐えかねて、電車とバスを乗り継ぎ、同県内の上尾市にある児童相談所(児相)に駆け込んだ話が掲載されていた。駆け込んだといっても、少年は、記事からでは詳しい事情は分からないが、児相の中に入らずに玄関先にうずくまっていたという。

 新聞報道によると、保護されたのは今月7日(金)夕方で、当時の気温は約10度と肌寒かった。少年の服装はと言えば、Tシャツにジャンパーを羽織っていたものの、素足にサンダルというもので、少年が父親の目を盗んで慌てて逃げてきた状況を推察させる。少年のポケットには100円ほどしかなかったとある。

 少年が地元の児相に頼らずに、20キロ以上離れた上尾市にまで足を伸ばしたのは、彼が以前(今年の2月ごろ)、この相談所に一時保護されたからだと思われる。周囲に誰も少年に手を差し伸べられる大人がいなかったのかと思うが、いずれにしても少年は必死の思いで児相に辿り着いたはずだ。保護された少年の目の周りには青あざがあり、背中と太ももには殴打痕が見られ、右手人差し指の付け根を骨折していたという。また、足の裏を画びょうで刺されたとのことで、数十箇所の刺し傷が確認された。少年によると、その日の昼ごろ、自宅で45歳になる父親から鉄棒のようなもので殴られ、足の裏に画びょうを刺されたという。

 記事を読んだだけでは、2人の記者が取材している割には取材が“甘く”、幾つかの疑問が残る。2月に少年が保護された児相がなぜ遠く離れた上尾であったのか、その時なぜ少年を帰宅させてしまったのか、帰宅させた後の児相のフォローがどのようにされていたのか等が不明だ。また、暴行されたのが平日(金曜日)の昼ごろとあるが、小学校4年生なのになぜこの時間に自宅にいたかの説明がない。そして、少年が児相の玄関まで辿り着きながらなぜ中に入らなかったのかも記述がない。

 そんな取材のつたなさは別として、読むだに悲しい、なんとも胸が痛くなる切ない話だ。少年の父親は、昨年11月まで勤務医だったそうだが、家庭の中に問題を抱えていたのだろう。妻はひと月ほど前に家を出ており、少年は父親と2人暮らしをしていた。これを読んで、多くの人は、「なぜ母親は少年を置いて家を出たのか」と思うだろう。私にもそんな思いがないわけではないが、いずれにしても判断材料になる情報が少なすぎる。この場では軽々に少年の母親を非難することは控えたい。

 この記事を読んで10年近く前に相談を受けていた母子のことを思い出した。当時小学校低学年の男の子の父親は、この記事で紹介されている少年と同じ、病院に勤める医者であった。外見は快活な男性であったが、仕事などからくるストレスを家庭内暴力で発散していた。その母子は結局、家を出て2人だけの生活を始めたが、そこに至るまでの母子が味わった苦痛は、並大抵のものではなかった。母親が私を頼ってきたのも結局は行政に救いを求めても何ら有効な手助けは得られなかったからだ。その時、彼女は一瞬の気の迷いから子供を置いて家を出ることを口にしたことがあった。私の説得に、すぐに「目が覚めて」思い直したが、そんな母親の苦悩を見ているだけに少年を置いて出たという母親をひと言で非難できない。

 このような親による子供への虐待は年を追って増えている。厚生労働省の発表では、04年度に児相に寄せられた児童虐待の相談件数は、全国で約3万3千件あったという。埼玉県では、このような状況を受けて6月から虐待通報を24時間受け付ける体制になった。県に先駆けて24時間受付体制を実施しているさいたま市では、休日・夜間の通報で緊急に対応できた場合もあり、実績を上げているとのことだ。ただ、前述のような例を多く見聞きしているだけに、行政にはそのような形式だけではなく、中身のある体制作り、声を外に出すことが出来ない子供たちに手が届くような具体的なシステム作りを心がけて欲しいと心から願うばかりだ。