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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

私の視点 報道特集「フジモリ元大統領の日本人妻」を斬る

2006-04-10 02:43:07 | Weblog
 9日の「報道特集」(TBS)でフジモリ元大統領の新妻、片岡都美さんを密着取材した内容の番組をやっていた。片岡さんは、日本で政治亡命をしていたフジモリ氏を物心両面で支え、同氏が再起を期して南米に渡ったものの囚われの身になってしまうと、己が身を投げ出すかのようにペルーに乗り込んでいく行動的な日本人女性実業家だ。番組では、TBSの女性記者がホテルの部屋や車の中にまで同乗し、化粧をするところまで見せながら“ドラマ”がテンポ良く展開していく。

 片岡さんの姿は、幾多の困難を乗り越え、両者の年齢の差や生まれ育った環境の違いを超えた者のみが持つ気高さを感じさせた。若くしてホテル経営で財を成した彼女が、フジモリ氏のような夢を持つ男のために尽くす姿は、大和なでしこの持つたおやかさに隠された「芯の強さ」を感じさせるもので見る側はその見事な生き様にぐいぐいと惹かれていく。

 番組の構成としては、貧者のために尽くしてきたフジモリ氏が、今もいかにそういう低所得者層から愛されているかが何度も繰り返し紹介される。そして、「チーノ」の愛称で呼ばれるフジモリ氏の代わりにペルーに乗り込んでいった片岡さんが、支持者達から熱狂的な歓迎を受けている姿が映し出される。それを見て私のパートナーは感激のあまり鼻水をすすりだした。

 最初は好意的に見ていた私も、番組を見続ける内に幾つか気になりだした。そしてやがて、「警戒センサー」が鳴り出した。どうも片岡さんの言動に何らかの意図的なものが感じられるのだ。また、番組に一貫するフジモリ氏に対する過度に好意的な姿勢も気になった。

 まず、フジモリ氏の大統領としての「顔」だが、在任中の素顔や実態は、日本ではあまり知られていないが、ペルーのみならず、国際社会からも「独裁者」に分類された指導者であることを忘れてはならない。政権末期の政治腐敗は目に余るものがあり、次々に明らかにされた「政敵暗殺」「構造汚職」は、彼を事実上の政治亡命に追い込んでいる。だから、番組から醸し出されていた「不運の大統領」「民衆に愛される指導者」というイミッジ(イメージ)と実態とは大きな差があると言っていいだろう。

 フジモリ氏は大統領選に初出馬を決めた時、貧富の差の改善を誓い、チョロ層(先住民およびそれに近い混血層の出身でもとは下層階級)がペルー社会の基盤にならなければならないと公約したが、実際には一部の地域に限定して行われただけで、全体的には貧富の差は逆に広がったとされている。だから一部の恩恵を受けた地域に行けば、TBSのカメラが捉えた様に「チーノ、チーノ」の大合唱になる。それを何度も見せられた視聴者は、フジモリ氏が貧富の是正で大きな成果を上げていたと勘違いした人も少なくなかったのではないか。

 片岡さんの“純愛”も番組が進む内に、私の目には段々色褪せて見えてきた。片岡さんそのものが政治家に見えてきたのだ。現地のTV番組収録中に見せた彼女の涙も打算から流されたように見えた。私は、右であろうと左であろうと、政治家や活動家を個人が支援することは自由だと考えている。だが、良くある事とはいえ、そこに恋愛や結婚を、活動を有利に進めるために使うのは生理的に受け付けない。片岡さんの動きを見ていると、失礼ながらそんな様に見えてしまったのだ。

 片岡さんについては、いろいろの情報があった。本名、片岡都美(かたおか・さとみ) 。番組の中で片岡さんが「日本人」であることを強調していたが、ジャーナリストの山岡俊介氏によれば、彼女は在日韓国人であるという。国籍がどうのこうのというつもりはないが、今回に限って言えば、もし彼女が韓国籍であるのならそれは隠し立てすることではない。はっきりとそう伝えるべきである。その上で、ものごとを語れば良いだけの事だ。ただ、もちろん、山岡氏の情報が間違っているのであれば、問題にならない。著書に書かれた自己紹介を見ると、日韓両方の血を受けたとある。波乱万丈の人生を歩んできた片岡さんは、現在40歳。20代半ばで借金の保証人になって死を覚悟していた時、ある社長から任された都内にあるホテルを再建、その傾きかけたホテルを今や稼働率が90%を超えるまでにした女性実業家だ。

 片岡さん、ただ単なる実業家ではない。いろいろ調べてみると、右翼の世界では有名人なのだ。それは、「さくらサクラー愛と革命」と題する彼女のHPを見てもよく分かる。

・骨抜きになった日本の精神を今すぐ叩き直せ!
・力による武力行使で浄化作用を!
・国益に重大損害を与え、私利私欲に走る政治家、役人に天誅を与えよ!

 また、自著でも次のようなあいさつ文を書いている。

 いまや日本そのものが亡国の危機に瀕しているのです。
 これを知るに至り、私は、自分の人生を本当に捧げるべき目標を得ました。
 それは失われつつある武士道精神を甦らせ、この国に真実の「革命」=維新=を起こし、亡国の淵から吸い上げることです。
 己の命を投げ捨ててでも、行動する価値のある目標ではないでしょうか。
 愛国心の片鱗を持つ者でさえあれば、今の日本の危機的状況を見て、耐え難い義憤を抱かないはずはありません。国の将来を憂えないはずはありません。
 志を立てた若者たちが行動を起こさねば、国は滅びてしまうでしょう。
 しかし、真に国をを憂える人柱が現れれば、必ずや世は動きます。
 国のために殉ずることは最高の美徳であり、栄誉なのです。
 私はこれから、その大義のために人生のすべてを捧げる覚悟でいます。
 本書は、とくに日本の若い世代に対して、その血に受け継がれた武士道精神を呼 び起こし、この「革命」=維新=に参加してほしいという切なる思いでおります。

 
 いずれにしても、片岡さんがフジモリ氏を支援するために思いつく限りのことをするのは自由だが、マスコミがそれに安易に乗せられるようでは情けない。それも、かつては「報道のTBS」の看板番組(私自身も番組制作に関わったから個人的な思い入れがある)と言われた報道特集がこんな番組を作ったとは、トホホなんとも情けない話だ。ジャーナリストにとって取材対象者との距離は常に意識しておかなければならないが、この番組を制作したディレクターのやり方は、悪しき例と言っていいだろう。