1月20日(土)ホテルモントレ札幌。カーテンを開けると雪が舞っていた。室内がイギリス風の雰囲気でとてもいい。たとえば小さな時計は四角いキャンデーが入るような缶にはめ込まれている。洗面所も二つで、ひとつは木の床なのだ。だらだらと時間を過ごして11時前にチェックアウト。タクシーで南3条西5丁目へ向う。カフェ「RANBAN」の屋根には雪が積もっている。この建物は昭和初期の民家を改築したもので、1997年に札幌市都市景観賞を受賞している。木の入り口を入り窓際のテーブルに座る。マスターの阿部和弘さんがすぐにやってきて「いいときに来ましたよ」と言った。「ベストオブパナマ」で準優勝した珈琲豆が手に入ったという。出荷は全世界で30キロ。そのうちの20キロを買うことができたと嬉しそうだった。日本では「RANBAN」でしか飲めない。メニューにも出していないので「どうして」と聞くと、すぐに無くなってしまうからだという。北海道のポテトを使ったトーストを頼み、まず炒れたての珈琲を飲む。まろやかで微かに花の香りがする。半分ほど飲んでフレッシュを入れると、さらに甘味を感じた。ひとり100グラムから200グラム限定という豆を持ち帰ることにした。毎朝珈琲ミルで豆を挽いているのだが、どうも秘訣があるようだ。ポイントは「細かさ」だと聞き、ミルの調整方法を教えてもらった。阿部さんは同い年。1977年に開店だから、ちょうどわたしが東京に出た年のこと。こんな生き方もいいなと思ってしまった。
札幌駅に出て千歳空港へ。エアーマミーに立ち寄りフクロウの人形を物色。今回は人形作家の藤岡孝一がエリマキ材に彫ったものを購入。函館ラーメンを食べてJAL1024便で東京へ。機内では宇田川悟『VANストーリーズ 石津謙介とアイビーの時代』(集英社新書)を読む。参考になったことは、流行ではなく風俗を作りたいと志向した石津の人生だ。「悠貧」という言葉もいいが、何といっても「人生四毛作」には味がある。石津と交流のあった宇田川の説明を引用する。
人間、一〇〇歳まで生きると仮定して、それを二五年ごとに区切る。すなわち一毛作目は二五歳までの人格形成期、二毛作目は五〇歳までの必死に働いて生活を形成する時期、三毛作目は七五歳までの新しい人生を楽しむ時期、最後の四毛作目はもうけものの人生で思うままに生きる時期。
人間関係や新しい行動などに面倒くささを感じてくることがある。それを払拭することで意外な世界が広がっていく。石津さんは91歳で亡くなったけれど、「もうけものの人生」まで生きた。「人生四毛作」。知識としてではなく、生活のなかで実際に慈しみたい考え方だ。羽田から浜松町。池袋で降りて「おもろ」。常連にお土産の特大ホッケを渡して雑談。日本で働くフィリピン女性の故郷を訪れたNさんの話を聞く。「新しい人生を楽しむ時期」だ。果してこの恋の行方はどうなるのだろうか。常連の話題なのだ。帰宅すると「再見!テレサ・テン」というメモリアル・ボックス(CD5枚組)が送られてきていた。まず中国語ベストを聴く。