コバケン&大阪フィル「炎の第九」オーケストラ合わせの朝。散策中の心斎橋にて、「モーツァルト 伝説の録音」第1巻「名ヴァイオリニストと弦楽四重奏団」、第2巻「名ピアニストたち」(飛鳥新社)と出逢った(各12CD + 書籍)。
「内容は良さそうだけれど、この
ハイレゾ時代にCDを買うのもどうか?」と定価で購入するのを躊躇っていたところ、破格の安値で店頭に置かれていたのを発見したのである。
「きっと、わたしを待っていたのだ。ここで出逢ったのも運命」。
まだホテルの一室に居るためCDを聴いたワケではないが、「これなら仮に定価で購入しても悔いはない」と呼べる代物であることは、手にしてみて分かる。本物の手応えとでも言おうか、作り手の思い入れやこだわりがジーンと伝わってくるのてある。
まず、装丁が美しい。書籍のつくりも堅牢だ。なにより、中身が充実している。SP時代の名前だけしか知らない、或いは名前すら知らなかった往時の名演奏家たちについて多くの情報があり、演奏や録音の時代背景も分かり、さらに音盤の資料としても一級品と呼んで差し支えないだろう。
そして、何よりこの書籍の価値を高めているのは、内田光子へのインタビューであろう。
モーツァルトについて、演奏家について、演奏行為について、そして、音楽の本質について語られる言葉は宝石のようであり、そのいちいちが最短距離でズバリと核心を射ている。
それらをここで披露するのは反則だと思うので一例のみを挙げておこう。
それは、「モーツァルトは許せる心を持った人」という言葉である。
「私は、彼女(伯爵夫人)は許したんだと思うのね。だけど、その音楽の美しさ、許すということ、それがなかったら、『フィガロの結婚』を聴いた意味がないと思う。」
確かにそうだ。許しがあってこそのフィガロでありモーツァルト。この至言、野田秀樹が聞いたら、なんと言うだろう(笑)。
とまれ、SP復刻の第一人者、新忠篤氏による音を聴くのが楽しみである。しばらくは長時間リスニングルームに籠もることは難しそうなのだけれど。