昨日は久しぶりに仕事のない日曜日なので、家でノンビリ過ごしたいところであったが、ペレーニのリサイタル、しかも、バッハの無伴奏ときけば出掛けないわけにはいかない。
前回聴いたときは息子ベンジャミンのピアノとの共演であったが、ペレーニには申し訳ないが、父子の芸格の差は歴然として、酔えない部分もあった。
無伴奏ということで、ペレーニを満喫できるのが嬉しい。
4日(金)に初日を終えての2日目の演目は、2番ニ短調、3番ハ短調、6番ハ長調の3曲。
もっと劇的に、ものものしく演奏してもよい2番ニ短調を、ペレーニは優しく、慈しむように奏する。
どんなときもテンションを目一杯高めるのではなく、余裕を持った表現で、そこに懐の深さを感じさせるところがペレーニの真骨頂がある。
圧巻は、6番ハ長調。
休憩を挟んでペレーニの魂がより躍動しているのが伝わってくる。
ハイポジションの多用される技巧的な難曲でありながら、技術的な問題は皆無。
67歳という年齢を考えれば、「音はかすれたけれど味があった」「技術を超えた精神性があった」という類いの感動でも十二分な筈なのだけれど、ペレーニは技巧的にも現役なのだ。
日々の弛まぬ精進が確信に満ちた音となって聴く者の胸に迫る。
ペレーニの演奏を聴きながら、どこかこれに似た感覚があったな、と思い出したのが、我が両親の故郷、鹿児島県に立つ日本一の巨木「蒲生の大楠」だ。
蒲生八幡神社のご神木である樹齢1500年を越す大木の下に佇んだとき、大きく伸びた枝々から降り注ぐ気のエネルギーを浴びながら感じた安心感がペレーニの音になるのだ。
そう、まるで古木の歌うのを聴くような感覚。
ステージを眺めていると、どこからペレーニで、どこからチェロなのか分からないくらいに、ペレーニと楽器が一体化しているのが分かる。
アンコールは、1番「アルマンド」と4番「ブーレ」。
本編にはあった全曲演奏という重圧、緊張感からペレーニの魂が自由に解き放たれ、眩いばかりの光彩を放っていた。
まこと至福のひとときであった。
J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲演奏会
ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲
第2番 ニ短調 BWV1008/第3番 ハ長調 BWV1009/第6番 ニ長調 BWV1012
12月6日(日) 14時 浜離宮朝日ホール