岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

雪消えとともに真っ直ぐ天に春を窺う簪 ・ショウジョウバカマ・

2008-05-11 06:50:06 | Weblog
(今日の写真はユリ科ショウジョウバカマ属の多年草「ショウジョウバカマ(猩々袴)」である。花名の由来は顔の赤い「猩々」という伝説上の動物と花の色に似て、葉の広がる様子を「袴」に見立てたことによる。

        ・雪消えとともに真っ直ぐ天に春を窺う簪・

 ロゼット状の葉の袴を地面にしっかりと土台のようにし、すくっと茎を伸ばしている紫の花、ショウジョウバカマが咲いていた。背丈は短いが生気が漲っている。
 他の山のものは名のとおり鮮やかな緋色であることが多い。鳥海山で出会ったものはまさに名前のとおりの猩々色の緋色だった。しかし、岩木山のものは素朴で地味な色合いが一般的であるように思う。これは土の性質によって花の色が変わることによるらしい。
 これは、アジサイの花が、土の成分が酸性だと青色、アルカリ性だと赤色になることに似ている。
 4月末に山形県の羽黒山に行ってきた。標高が四百メートルちょっとの山である。なんと、そこにはショウジョウバカマが群生するほどに咲いていた。岩木山では標高千メートルを越えないと顔を見せてくれない花なのにと驚いた。花の色は岩木山のものとほぼ同じであった。土の性質が同じなのだろう。麓の旅館に泊まったのだが、そこの庭にも咲いていたのには驚きを越えてあきれてしまった。
 岩木山では「高山植物」として扱われる花が山形県鶴岡市の羽黒地区では「庭の花」なのである。自然は不思議だ。
 不思議はこれだけではない。このショウジョウバカマという植物には不思議でおもしろい性質がある。それは「葉」の先端を土に差し込んで「そこ」から、芽を出して増えていくというものだ。この芽を「不定芽」という。
 イチゴなども「茎」を地面に匍わせながら、そこから根付いて増えていくものもあるが、
葉を地面に突き刺してそこから新芽を出して増えるというものは非常に珍しいものだろう。イチゴの場合はこれを「ランナー」と呼んでいるようだ。

 ショウジョウバカマは、花を咲かせて種も作る。種から出る芽も葉から出る芽も、大きくなれば見分けがつかない。であれば、受粉、結実、播種、発芽というものすごいエネルギーを必要とする過程を伴う種を作らないで、この「不定芽」でどんどん増えていく方がすごく合理的だと思うのだ。
 しかし、ここでまた不思議に出会う。葉から出る「不定芽」だけで増えていくと、絶滅する可能性が大きくなるというのである。
 その仕組みは…葉から出た不定芽は、まず、親の葉から栄養分をもらって成長する。また、親の葉から独立しても、親と「すべて同じ性質」を持つのである。
 これは、親である葉を持つものが病気にかかり死んでしまう場合、葉から芽生えて大きくなったものも死んでしまうことを意味する。
 しかし、種からの芽生えは、「受粉」によって出来る「こども」である。「こども」は親とは少し違う性質を持っている。この場合、「親」がある病気に弱いからといって、「こども」が同じように弱いとは限らない。もっと弱いこともあるし、逆に強い場合もある。そして、「強いもの」だけが生き残る。
 また、環境が長い時間をかけて変化していく場合にも、親とはちがったさまざまな性質をもつ種を作ることで、その変化にうまくあった子孫を残していける可能性が高いのである。
 それでは、このような「リスク」を抱えながらもどうして、ショウジョウバカマは「不定芽」を出して増えていくのだろう。
 よく観察すると、すべてが「不定芽」を出すとは限らないのである。そこから考えられることは「不定芽」を出すということは「緊急避難的な行為」ではないかということである。そこで、ショウジョウバカマの生えている環境を岩木山に当てはめて考えてみる。
 ショウジョウバカマは雪渓や雪田の傍で花を咲かせる。これは「雪渓や雪田の傍ら」という環境と密接な関係と相互作用を窺わせる。これは、その年の降雪や積雪の多寡によって、「花期」になっても雪が消えなければ、花を咲かせることは出来ないこともあるということを教えたくれる。
 葉から出る「不定芽」は、親の葉に養ってもらっている。そのおかげで、急激な環境の変化に生き残ることの可能性が高い。雨が降らず、種からの芽生えが枯れても、葉から出た芽は生き残れるかも知れない。
 つまり、ショウジョウバカマは初夏の開花期になっても、まだ積雪に覆われた状態で花をつけることが不可能な場合に、生命の存続と種の保存のために「不定芽」によって子孫を残そうとしているのである。ただし、花を咲かせたものも「不定芽」はつけるのである。
 また、短期間に数を増やせられるのも、葉から出る芽の特長でる。これも雪解けの遅れによる生育期間の短さにうまく呼応している。さすがである。
 葉からも芽を出すことが出来て、種も作ることが出来る植物は、「種」でしか増えることが出来ない種類よりも生き残りには有利だろう。
 しかし、このことだけでは、先に述べたような「死んでしまう」というようなこともあるので「植物生存の有利さ」を一概には決められない。「葉から出る芽が得をする」などとは到底言えない。

 ショウジョウバカマは植物の繁殖学や生化学の分野での「実験」では大いに利用されている「モテモテ植物」なのだそうだ。
 それは世代交代をするのに「種子」という長時間を必要としないから、つまり、短期間に数を増やすことが可能という「葉」による「不定芽」で新しい芽を作る合理性によることが大きいのであろう。

(今日はショウジョウバカマのことで字数が多くなってしまったので「大きな誤算・温暖化といっても早く咲き出さない花もある」は休載とする)