礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

追悼・小浜逸郎「彼は昔の彼ならず」青木茂雄

2023-04-20 01:36:24 | コラムと名言

◎追悼・小浜逸郎「彼は昔の彼ならず」青木茂雄

 先月三一日に、評論家の小浜逸郎(こはま・いつお)さんが亡くなられた。小浜さんと交流があった青木茂雄さんに追悼文をお願いしたところ、「彼は昔の彼ならず」と題する文章をいただいた。この文章は、まだ完結していないが、本日と明日は、その「1」と「2」にあたるところを紹介したい。

 彼は昔の彼ならず      追悼 小浜逸郎                  青木茂雄

1.彼は昔の彼ならず    He is not what he was.

 小浜逸郎さんが2023年3月31日に亡くなったことを新聞の訃報欄で知った。1947年生まれというから私とちょうど同学年だ。同世代の者がいなくなることはやはり寂しい。だが彼の場合は、私にとっていささか、いや、かなり複雑である。
 グーグルで検索してみると、産経、正論、HANADA etc. 右派系メディアばかりがひっかかる、それに反ワクチン、ヘイトスピーチ、などの項目も踊る。やはりそうなのか…。

 小浜さんは、2008年から横浜市の教育委員を1期つとめた。「横浜市教育委員小濱逸郎」としてである。私は新聞で報道された「小濱逸郎」が私がかつて知っていたあの小浜さんと同一人物であるとは、しばらくの間、まったく信じられなかった。
 そう、「小濱逸郎」は、端的に言って巨大採択区となった横浜市において、かの今田忠彦教育委員長の手足となって教科書採択に尽力した人物である。彼の働き、また彼の存在意義は、つくる会系の社会科教科書(扶桑社→育鵬社)を一挙採択するというただ一点にのみあった。事実そう働いたのである。いろいろ調べてみると彼が大変有能なキイパーソンであったことがわかる。それについては後ほど具体的に述べるが、横浜市の住人として憤懣やるかたなく、私は次のような文をとある雑誌に書いて批判した。

 小濱委員は教育評論家小浜逸郎としては結構その名を知られており、1990年代には既存の枠にとらわれない新しい型の教育論や家族論を展開した。『学校の現象学のために』や『子どもは親が教育しろ』などの著書がある。筆者とは見解と立脚点が異なるにしても、これらの著書から教えられたことも多い。また、吉本隆明氏の主宰する雑誌『試行』にも文章を寄せていたという過去もあるが、オウム事件に対する評価に関して氏の怒りを買い、やがて袂を分かつことになる。それが、今回、教育委員として純然たる保守反動の論客として登場したことはまったく予想もつかないことであった。本気でそう考えているのか、今田委員に肩入れし過ぎたのか、つくる会系との人脈や何らかの政治的背景があるのか、あるいは単なる利害関係と保身のためなのか、いずれにしても教育評論家小浜逸郎としての文筆生命は断たれたと見て間違いあるまい。
                (「2011年教科書採択から見えてきたもの」2011年11月)

 彼は2012年に横浜市の教育委員を辞めた。彼の辞任により、横浜市教育委員会の雰囲気が随分変わったとは聞いていたが、そうか、彼の知識人としての良心がこれ以上のことを許さなかったのか、と私は勝手に解釈していた。また、法華経に傾倒して死について考えているとか、言葉と歴史について考えているとかの情報を漏れ聞いて、「保守派」は「保守派」として、また別の登場もあるのか、と期待することろが無きにしもあらずであったが、私の関心は薄れ、その後“小浜逸郎”の動向についてはまったく私の視野から消えた。
 そして、今回小浜さんの訃報を聞いた。
 インターネットで検索する限り、彼が最後の著作として何かに挑んでいたという形跡は見当たらない。最後は結局ありきたりの、定位置を与えられた「保守系評論家」で落ち着いたのだろうか。世間的にはそうであるし、そうとしかあり得ないだろう。
 しかし、小浜さんの昔をほんのわずかであるが、知っていた者としては、そのような評価で終わることが残念である。

 私が小浜逸郎さんと面識したのは今を去る30年以上も昔である。ありきたりの「保守系評論家」になる前のかれの姿を、記憶をたぐり寄せて書いてみたいと思う。
 最後に、太宰治が愛用し、おそらく小浜さんも愛用していたであろう言葉でこの回を締めたい。

 「彼は昔の彼ならず。    He is not what he was.」        (続く)

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