礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

殻を失ったサザエは、その中味も死ぬ(東条英機)

2017-08-06 04:50:51 | コラムと名言

◎殻を失ったサザエは、その中味も死ぬ(東条英機)

 富田健治著『敗戦日本の内側――近衛公の思い出』(古今書院、一九六二)から、第四二号「終戦の詔勅下る」を紹介している。本日は、その三回目。
 昨日、紹介した部分のあと、改行して、次のように続く。

 近衛公は〔八月〕九日朝、荻外荘〈テキガイソウ〉でこのソ連参戦を聞いたのであるが、かねて見透してもおり、別に驚くこともなく『陸軍を抑えるには天佑かもしれない』と言って宮中に木戸内府を訪ねた。恰も午後一時、別室で最高戦争指導会議が開かれていたが、(一)皇室の確認(二)自主的撤兵(三)戦争責任者の自国においての処理(四)保障占領をしないことの四条件を以って、ポツダム宣言を受諾するという説と、天皇の地位を変更しないということの他は、無条件で受諾しようと主張する説とに別れて、中々決定が困難を極めていた。
 政府としても、午後二時から、閣議を開いて、国力から見た戦争の見透しについて討議した。東郷〔茂徳〕外相は天皇統冶権確認の他、無条件降伏を主張し、米内〔光政〕海相らもこれに賛成した、が阿南〔惟幾〕陸相だけは「本土決戦の段階に入れば、一応は敵を撃退できよう。その後は必勝の見込は立たぬが、しかし必敗というわけでもない、決然戦えば死中に活を得る公算も生ずるだろう」という強硬意見で、前の四条件を固執した。安倍〔源基〕内相、松坂〔 広政〕法相がこれに同調したといわれている。
 かくて、終戦処理は、この段階に至って、又停止状態となったので木戸内府はこの上は、御前会議を開いて、御結断を仰ぐ以外に道なきことを鈴木総理に強く説いた。
 そこで九日午後十一時五十分、御文庫附属室の地下防空壕で、歴史的な御前会議が開かれることになった。
 先ず東郷外相から、皇室と天皇統治大権の確認のみを条件にして、ポツダム宣言を受諾すべきだと述べたが、阿南陸相は四条件を付すべきだと反論した。東郷外相説には米内海相平沼〔騏一郎〕枢相が同意したが、梅津〔美治郎〕参謀総長と豊田〔副武〕軍令部総長が陸相を支持して議論は尽きなかった。時に既に午前二時になっていた。そこで鈴木総理は『議を尽すこと既に数時間、なお議は決せず。しかも事態は遷延を許さない。かくなる上は甚だ畏れ多いことだが、聖慮を以ってこの会議の決定としたい』と述べ、陛下の御前に参進した。陛下は総理がもとの座に帰るよう仰せられ、やゝ体を起こされた後『それでは自分が意見を言うが』とて、我〈ワガ〉国力の現状、列国の情勢など顧みる時は、これ以上戦争を継続することは、日本?を滅亡せしめるのみならず、人類を一層不幸に陥れるものであるから、この際堪え難きを忍んで、戦争を終結させたいとの趣旨を仰せられ、外相の原案に賛成だとお述べになった。陛下は又陸海軍将兵、戦死傷者、及びその遺族のことにつき、仁慈の御言葉があり、更に陸海軍の計画と実際との間に、喰い違いの多かったことにも御言及があった。
 このような稀有〈ケウ〉の形で会議は結論を得たのである。そこで八月十日、米、支に対してはスウェーデンを通じて、戦争の継続による惨禍から、人類を免れしむるため、速かな戦闘の終結を祈念せられる天皇の大御心〈オオミゴコロ〉に従い、数週間前にソ連に平和恢復の斡旋を依頼したが、不幸にして結実を見なかったことを述べた上
 帝国政府は七月二十六日ポツダムにおいて、米、英、支三国により発表せられ、爾後ソ連の参加を見たる、共同宣言に挙げられたる条件中には、天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含しおらざることの諒解の下に右宣言を受諾す。
 という要旨の電報が発せられたのである。十日午後一時、重臣会譏が開かれ、そのあと引続き、陛下は宮中において、重臣を召され一人一人の意見を徴せられた。平沼、若槻〔礼次郎〕、岡田〔啓介〕、近衛、広田〔弘毅〕、東条〔英機〕、小磯〔国昭〕諸氏らが言上したが、何れも大体宣言受諾に異議なき旨申述べた。たゞ東条だけは、自分には意見もあるが、聖断が下った以上、已むを得ぬ〈ヤムヲエヌ〉と言い、陸軍をサザエの殻に例え、殻を失ったサザエは、その中味も死ぬものだと述べ、武装解除が結局国体の護持をも不可能にする旨を申上げたと言われている。【以下、次回】

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