礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「椹梨」「機織」「万木」という地名の読み方

2017-04-10 00:34:46 | コラムと名言

◎「椹梨」「機織」「万木」という地名の読み方

 この数日間、駅名や地名の読み方について紹介してきた。そうしているうちに、海野昌平著『実生活に及ぼす国語及び文字の波紋』(桑文社、一九三七)という本を思い出した。
 この本には、「十一、地名奇談」という章があり、珍しい駅名や地名を漫談風に紹介している。同章は、「一、駅名」と「二、地名」の二節に分かれているが、資料としては、後者のほうが興味深い。本日は、これを紹介してみよう。【 】内は、原ルビである。

   二、地 名
 駅名も地名からとつたので殊更〈コトサラ〉二つに区別する要もないのであるが、前には全国鉄道図の中から拾ったもの、こゝには鉄道の引かれてない地や、たとへ開通してゐても駅のない処などから見ようといふのである。地名といっても前述のやうに北海道や朝鮮、台湾などには珍しい又難しい名は沢山あつてもこれは特別な関係があるので省略する。
 それから地名も村や町の字【あざ】等を探すと限りがない。
 東京にも牛込に破損【はそん】町、或は焼餅【やきもち】坂等といふのがあつたが今ではなくなつてしまつた。又、同じ字でも「一口【いもあらひ】坂」といふのが正しいのに「ひとくち坂」と電車の車掌は呼んでゐる。であるから地名も幾分の変遷をまぬがれぬ。
 現に「明治」「大正」「昭和」等といふ町村名が各地にあるが、これは改名したのか、新しく名づけたのか,兎に角〈とにかく〉新しい名であるに違ひはない。また、「高麗」と書く村があるがこれは朝鮮系統の人が住んだ地方である。しかし、同じ此の字でも処に依つて読み方が違つてゐるので、東京の武蔵野鉄道沿線のは「コマ」といひ、京都近くのは「コウライ」、鳥取県では「コウレイ」と読んでゐる等はなかなか煩雑である。同じ字でも三通りも読むのであるから外国人が日本語は難しいといふのも、尤なことである。
「等々力」にも東京府のは「トヾロキ」で、山梨県では「トヾリキ」である。こんな例はあげれば限りがない。
  飽田  あいた 熊本県  あいた 茨城県
  豊島  としま 東京府  てしま 大阪府
  椹梨  くはなし 広島県 むくなし 広島県
  機織  はたおり 秋田県 はとり 福島県
  万木  よろぎ 滋賀県  よるぎ 滋賀県
  菊田  きくた 神奈川県 くくた 福島県
  蒔田  まきた 岐阜県  まいた 埼玉県
  清水  しみづ 静岡県  すんづ 鳥取県
  十三  じふさん 青森県 じふさう 大阪府
  大福  おほふく 福岡県 だいふく 奈良県
  七戸  なゝと 高知県  しちのへ 青森県
 又、同じ発音で漢字は別なのがある
  あき   安芸 広島県   阿木 岐阜県
  あさ   厚狭 山口県   麻  香川県
  すゑの  末野 新潟県   陶野 京都府
  たもん  他門 新潟県   多門 兵庫県
  たかの  高野 京都府   竹野 京都府 
  しみづ  清水 静岡県   志水 新潟県   冷水 和歌山県
  はとり  服部 大阪府   羽鳥 滋賀県
  おほふけ 大更 岩手県   大瀁 新潟県
  ちぐさ  千種 愛知県   千草 兵庫県
 さうかと思ふと同じ字、同じ読み方の町村がいくつもある。
  清水【しみづ】  滋賀県 茨城県 静岡県 栃木県 宮城県
  古川【ふるかは】 東京府 宮城県 栃木県 山形県 新潟県
  草津【くさつ】  群馬県 滋賀県 広島県
  箕輪【みのわ】  長野県 群馬県 栃木県 茨城県 
  福岡       埼玉県 石川県 茨城県 宮城県 福岡県  【以下、次回】

 上記のうちでは、特に「椹梨」が難読である。この本が出た当時、広島県豊田〈トヨタ〉郡に椹梨村があった。読みは「くわなしむら」、もしくは「くわなしそん」。今日の三原市大和町〈ダイワチョウ〉椋梨にあたるらしい。この椋梨の読みは、たぶん、「むくなし」。しかし、「椹梨」を「むくなし」と読むこともあったのかどうかは不明。
 なお、昨日の郡名クイズに入れておくべきだったが、豊田郡は、静岡県、広島県、香川県に存在し、読みは順に、「とよだ」、「とよた」、「とよた」である。

*昨日のクイズ(郡名)の解答
吾妻〈アガツマ〉 吾川〈アガワ〉 安芸〈アキ〉 安芸〈アキ〉 赤穂〈アコウ〉 足柄下〈アシガラシモ〉 安蘇〈アソ〉 有馬〈アリマ〉 安房〈アワ〉 阿波〈アワ〉 何鹿〈イカルガ〉 夷隅〈イスミ〉 庵原〈イハラ〉 揖保〈イボ〉 入間〈イルマ〉 印旛〈インバ〉 宇陀〈ウダ〉 麻植〈オエ〉 邑久〈オク〉 小城〈オギ〉 勝田〈カツタ〉 葛野〈カドノ〉 香美〈カミ〉 上都賀〈カミツガ〉 蒲生〈ガモウ〉 杵島〈キシマ〉 北桑田〈キタクワダ〉 北都留〈キタツル〉 城崎〈キノサキ〉 久慈〈クジ〉 気高〈ケタカ〉 甲賀〈コウカ〉 西伯〈サイハク〉 塩谷〈シオヤ〉 飾磨〈シカマ〉 磯城〈シキ〉 下都賀〈シモツガ〉 上房〈ジョウボウ〉 駿東〈スントウ〉 泉南〈センナン〉 泉北〈センボク〉 相楽〈ソウラク〉 田方〈タガタ〉 多野〈タノ〉 長生〈チョウセイ〉 東伯〈トウハク〉 那賀〈ナカ〉 仲多度〈ナカタド〉 行方〈ナメガタ〉 西牟婁〈ニシムロ〉 榛原〈ハイバラ〉 幡多〈ハタ〉 氷上〈ヒカミ〉 南葛城〈ミナミカツラギ〉 南高来〈ミナミタカキ〉 美馬〈ミマ〉 名東〈ミョウドウ〉 武庫〈ムコ〉 野洲〈ヤス〉 八頭〈ヤズ〉 山辺〈ヤマベ〉 与謝〈ヨサ〉 和気〈ワケ〉

*このブログの人気記事 2017・4・10(6・8・10位にかなり珍しいものが)

 

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