礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

鈴木首相も平沼枢相の意見に賛成したる様子(東郷茂徳)

2021-08-11 02:15:47 | コラムと名言

◎鈴木首相も平沼枢相の意見に賛成したる様子(東郷茂徳)

 極東軍事裁判研究会編『木戸日記――木戸被告人宣誓供述書全文――』(平和書房、一九四七年一一月)に拠って、七十六年前の今ごろを振り返っている。本日は、その四回目。
 
三〇六 連合国の回答到着  昭和二十年八月十二日連合国より回答が到着しました。
 此回答の第四項に人民の自由意思により云々とあるが國體論者の側で問題となり、反対論が擡頭して来るのではないかと東郷〔茂徳〕外相は十一時に参内、連合国側の回答を奏上の後で心配して話して居られました。そこで私は外相に外務省に於て解釈は如何と尋ねました処が差支へないとのことでありました。私は斯如き〈カクノゴトキ〉場合に個人々々の意見に依つて左右せられて居つては結局纏り〈マトマリ〉が付かないので、責任当局の解釈に信頼して邁進する外なしと決意したのでありました。果然東郷外相が憂慮して居た如く之は國體論者の間に問題となりたるのみならず、軍部は之を契機として頓に硬化して来ました。一時四〇分には平沼〔騏一郎〕枢相が私を訪ねられて國體論の見地から反対を述べられました。之に対し私は前述の如き理由に依り外務当局に信頼し此の侭にして進むを可とする旨を述ベたのでありました。六時半に東郷外相が再度来訪せられ、鈴木首相も平沼枢相の意見に賛成したる様子であるから今後果して終結に導き得るや頗る疑問なりとの話であり、私も実は非常に驚いたのでありました。
 今となつて此交渉が破れる様なことがあれば、之は最初より玉砕の方針を採りたるよりも事態は悪くなるのであり、之は是非共、政府をして既定の方針で邁進せしめねばならぬと私は考へたのでありました。私は秘書官をして電話で首相に面会を求めました処、首相も亦私に面会を求め度いとのことでありました。そこで首相が後刻訪ねられるとのことで私とは役所で待つことにしました。鈴木首相は午後九時半に漸く来られました。首相は今日種々協議せられた経緯に就いて話かあり、國體論者の論には余程閉口して居る様でありました。而して私は次の如く力説しました。
「私は國體論者の論を軽視するのではないが、外相の研究に依れば差支へないと言ふことである。此危急の場合個人々々の意見に左右せられて居ては纏りは到底着けられない。故に責任当局たる外務省の解釈を信顔するより外に途〈ミチ〉はないと思ふ。又今日となれば之を受諾せず戦争を継続すれば、更に爆撃と飢餓の為め無辜の民を数千万犠牲にせねばならぬ。然るに之を受諾することに依り万一国内に動乱の起るとも吾々が生命を抛ば〈ホウレバ〉良いのであるから、此際迷ふことなく受諾の方針を断行しやうではありませぬか。」之に対して首相も力強く「やりませう」と云はれましたので、私に大いに意を強くしたのでありました。此頃より統帥部は著しく其態度が硬化し、最高戦争指導会議の開催が困難となつて来ました。之亦私に取つては一つの心配の種でありました。【以下、次回】

 ここに、「回答」とあるのは、いわゆる「バーンズ回答文」(一九四五年八月一一日付、ジェイムス・バーンズ米国務長官)というもので、その第四項は、〝日本国政府の最終形態は、「ポツダム宣言」に従い、日本国民の自由に表明する意思によって決定されるべきである。〟となっていた。平沼騏一郎ら國體論者は、この第四項を問題にしたのである。

今日の名言 2021・8・11

◎世界は何を学んだのか

 シャロン・オルソンさん(78歳)の言葉。昨10日の東京新聞朝刊トップ記事による。記事によれば、シャロン・オルソンさんの父親・ヒュー・アトキンソンさんは、広島の原爆で犠牲になった米軍捕虜のひとりだった。アトキンソンさんら12名の米軍捕虜は、中国憲兵隊司令部にいたところを、原爆の直撃を受けた。『日本憲兵正史』によれば、1945年3月、広島市基町(もとまち)に新設された中国憲兵隊司令部は、原爆の直撃によって、司令官瀬川寛大佐以下70名が死亡、非番の者を除いて全滅したという。当ブログの記事「広島市基町の中国憲兵隊司令部は全滅(1945・8・6)」(2020・8・11)を参照されたい。

*このブログの人気記事 2021・8・11(なぜか1位に加藤伯治郎)

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