礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

之デドウシテ戦争ニ勝ツコトガ出来ルカ(昭和天皇)

2021-08-09 01:24:06 | コラムと名言

◎之デドウシテ戦争ニ勝ツコトガ出来ルカ(昭和天皇)

 極東軍事裁判研究会編『木戸日記――木戸被告人宣誓供述書全文――』(平和書房、一九四七年一一月)に拠って、七十六年前の今ごろを振り返っている。本日は、その二回目。
 なお、木戸被告人とは、敗戦時の内大臣・木戸幸一のことである。

三〇三 聖断の要旨 翌昭和二十年八月十日附私の日記は次の如くであります。
  昭和二十年八月十日 (金) 晴
「御前会議終了後御召ニヨリ二時三十分ヨリ同三十八分迄拝謁ス。其際聖断ノ要旨ヲ御話アリ。恐懼感激ノ中〈うち〉ニ拝承ス。
 右要旨左ノ如シ。
 本土決戦本土決戦ト云フケレド一番大事ナ九十九里浜ノ防備ガ出来テ居ラズ、又決戦師団ノ武装スラ不充分ニテ之ガ充実ハ九月中旬以後トナルト云フ。
 飛行機ノ増産モ思フ様ニハ行ツテ居ラナイ。イツモ計画ト実行ハ伴ハナイ。之デドウシテ戦争ニ勝ツコトガ出来ルカ。勿論忠勇ナル軍隊ノ武装解除ヤ戦争責任者ノ処罰等、其等ノ者ハ忠誠タ尽シタ人々デソレヲ思フト実ニ忍ビ難イモノガアル。而シ今日ハ忍ビ難キヲ忍パネパナラヌ時ト思フ。明治天皇ノ三国干渉ノ際ノ御心持ヲ偲ビ奉リ自分ハ涙ヲノンデ原案ニ賛成スル。
 三時帰宅暫ク眠リタルニ朝ヨリ空襲アリ。九時五十分ヨリ十一時十分迄御文庫附属室ニテ拝謁ス。十二時半百武〔源吾〕大将来室面談。
 一時牧野〔伸顕〕伯来室。余ヨリ今日ニ至リタル事態ヲ詳細説明ス。御文庫ニ至リ拝謁意見ヲ言上セラル。
 重臣ヲ御召アリ。平沼〔騏一郎〕、若槻〔礼次郎〕、岡田〔啓介〕、近衛〔文麿〕、広田〔弘毅〕、東條〔英機〕、小磯〔国昭〕ノ七氏参内。午後五時三十分〔ママ〕ヨリ四時半ノ間御文庫附属室ニテ拝謁。余モ参列ス。各人ヨリ意見ヲ言上ス。四時三十五分ヨリ四時四十五分迄拝謁(御文庫)
 五時半山本〔英輔〕大将。六時松井成勲来訪面談。八時半御召ニヨリ三笠宮〔崇仁親王〕邸ニ伺候。殿下ニ拝謁。今日ニ至リタル事態ニツキ言上ス、九時過近衛公来邸。陸軍大臣ノ全軍ニ対スル布告ニツキ心配シテ来ラレシナリ。種々談懇ス。【以下、次回】

 若干、注釈する。「午後五時三十分ヨリ四時半ノ間」は、原文のまま。「午後五時三十分」は、誤記または誤植であろう。
 六時にやってきた「松井成勲」については不詳。木戸幸一が私的に抱えていた情報収集係か。
 八時半に三笠宮邸に赴き、九時過ぎには、近衛文麿が「来邸」したという。これは、木戸の私宅を訪ねてきた近衛が、その足で、三笠宮邸までやってきたという意味ではあるまいか。ちなみに、三笠宮邸、木戸私宅とも赤坂区にあった。
 富田健治『敗戦日本の内側――近衛公の思い出』(古今書院、一九六二)によれば、近衛は、同日夜、乗用車の車中で、阿南惟幾(あなみ・これちか)陸軍大臣名の「陸軍大臣布告」を聞き、そのまま自動車を木戸宅に向けたという。
 参考までに、富田の『敗戦日本の内側』から、当該箇所を引用しておく(この箇所は、かつて、当ブログで紹介したことがある。2017・8・7)。

 一方、同十日午後五時、近衛公は東久邇宮〔稔彦王〕を訪ねて、無条件受諾を進言している。そして同六時、待機していた私(富田)と細川〔護貞〕氏と三人で霞山〈カザン〉会館で夕食を共にし、そのあと、連合国側の反響を聞こうということで、真暗闇の中を三人で内務省、外務省、放送局等を歴訪したが、どこもカラッポで人一人、宿直の者も見つからない態たらくであった。敗戦前後のうら淋しい静寂さであった。ところがこの帰途、車内に聞いたラジオでは阿南陸相が全軍に訓示したことを伝えていた。陸相は『事ここに至る、また何をか言わん。断乎神州護持の聖戦を戦い抜かんのみ。例え草を食み〈ハミ〉、土を齧り〈カジリ〉、野に伏すとも、断じて戦うところ死中自ら活あることを信ず』とあったので我々は驚いた。これではソ連に対し宣戦でもしたかの如き調子に聞えるので、陛下の思召、御前会議の決定にも反するではないかということで、近衛公は、自動車をそのまゝ木戸内府の私邸に駆られた。〈二四二~二四三ページ〉

 阿南陸相の「陸軍大臣布告」の原文は確認していないが、ここでも、「事ここに至る」という言葉が使われていたようだ。

*このブログの人気記事 2021・8・9(10位の岩波文庫は久しぶり)

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