◎大月康弘さんの『ヨーロッパ史』を読んだ
大月康弘さんの『ヨーロッパ史』(岩波新書、2024年1月)を読んだ。久しぶりに、快い知的刺激を受けた。
タイトルの『ヨーロッパ史』は漠然としているというか、本書の面白さを反映していない。
本書は、ビザンツ帝国史を専門とする著者が書いた、ユニークにして興味深いヨーロッパ論である。読む前と読んだ後とでは、ヨーロッパのイメージが大きく変わる。
読んでいて、驚くこと、学ばされることが多かった。西暦(Anno Domini)が誕生したのはユスティニアヌス帝の時代で、それ以前には世界歴(Anno Mundi)が使われていたという。ちなみに、西暦元年は、世界歴5509年に当たるという。
地動説で知られるコペルニクスが初めて世に問うた書物は、シモカテス著・コペルニクス訳の『道徳風、田舎風、恋愛風書簡集』だった。これは、ビザンツ文化人のひとりシモカテスが中世ギリシア語で書いた『倫理書簡集』を、コペルニクスがラテン語に翻訳した本だという。
コペルニクスがボローニャ大学でローマ法を修めたことは「よく知られている」とあった。寡聞にして私は知らなかった。彼が天文学に関心を持ったのは、「暦」の研究がキッカケだったとあったが、そのことも、この本を読むまでは知らなかった。
収穫の多い一冊だったが、一点だけ、気になった箇所があった。221ページにある、「かの地〔ドイツ〕の領邦国家体制と、日本の幕藩体制は、諸国分立の点で確かに似通っていた」という一行である。
幕末における「王政復古」運動は、郡県思想に支えられており、封建制度の撤廃を目指していた(浅井清『明治維新と郡県思想』)。実際に明治維新は、版籍奉還(1869)、廃藩置県(1871)という過程をたどっている。むしろここでは、中央集権化に成功した明治維新政権と、中央集権国家・フランスとのアナロジーが必要だったのではないか(谷川稔『国民国家とナショナリズム』)。
本書の巻末には、人名・地名・事項という三種類の索引がついている。これは、専門書でもなかなか見られない行きとどいた配慮と言える。
この本は、「あとがき」から読むとよいと思う。著者が本書で意図したところがよくわかる。「あとがき」のみは、ですます体で書かれているが、見倣いたい工夫である。「あとがき」の最後に謝辞があるが、その対象は、編集担当者と恩師の両名に絞られていた。潔いと思った。
今日の名言 2024・4・25
◎真実と虚偽は、ことばの属性であって、ものごとの属性ではない
イギリスの哲学者ホッブズの言葉。このあと、「そして、ことばがないところには、真実も虚偽もない」と続く。『ヨーロッパ史』の226ページに引用されていた。このホッブズの言葉は、『リヴァイアサン』の中にあるという。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます