◎西園寺公望、シュタインから国家有機体説を学ぶ
成宮嘉造の論文「天皇機関説のゆくえ」(1979年3月)を紹介している。本日は、その六回目。
本日、紹介するのは、「4.天皇・西園寺公望・渡辺錠太郎の天皇機関説」の章の「第2 西園寺公望の天皇機関説」の節の全文である。
第2 西園寺公望の天皇機関説
西園寺公望は,天皇と等様に国家有機体説に拠り,国家法人説・天皇機関説に立ち,「自分は,陛下の御見識の頗る〈スコブル〉高いことにまことに感激し,また今日の情勢が陛下の御意見に頗る添わないことはかゆく思い」と,次の説を続けている(「西園寺公と政局」4巻〔岩波書店、1951〕237~9頁).
私(西園寺)が,憲法取調の際,ヨーロッパで聴いたSteinの説では,「国家というものは体軀のようなもので,要するに天子は首,即ち元首であるというような話をしたが,なにもスタインばかりでなく,支那あたりでも元首とか,股肱〈ココウ〉旺ん〈サカン〉なる哉〈カナ〉という言葉なんかがあるじゃあないか」と,実に高遠な知識である.
国家を元首股肱による有機体とみる国家法人説は,既に明治天皇が明治15年〔1882〕賜わった「軍人勅諭」に,「朕は汝等軍人の大元帥で,頭首であり,汝等軍人は股肱である」旨を述べ,下剋上的放伐革命回避の親縁を希求され,更に明治憲法第四条の立憲的元首天皇制を欽定されたのである.
元首股肱説は.西園寺の指摘のように中国に発する.これは中国最古の経典「書経」(「尚書」虞書益稷)に見え,舜時代の説である.そこに,「股肱嘉哉,元首起哉,百工煕哉」、「元首明哉,股肱良哉,庶事康哉」,「元首叢脞哉,股肱惰哉,万事堕哉」と,元首股肱の関係を述べている.「史記」司馬相如伝,「漢書」司馬相如伝に「君明,臣良」に用いられ,「漢書」によれば歴代の皇帝の詔に「書経」の古文が引用され,「経諝,君為元首,臣為股肱,明其一体,相而成」(「漢書」魏相丙吉伝)と人体的国家有機体説が遺憾なく説かれている⑴.
(1)拙稿「前漢までの革命論とその回避論」東海大学論叢・商経研究・21号〔1968年10月〕
ここに出てくるスタイン(Stein)とは、オーストリアの公法学者ローレンツ・フォン・シュタイン(Lorenz von Stein,1815-1890)のことである。
1882年(明治15)、伊藤博文参議らの一行は、「憲法取調」のためヨーロッパを歴訪した。この一行には西園寺公望も加わっており、ウィーンでは、伊藤とともに、ローレンツ・フォン・シュタインの講義を聞いたという(ウィキペディア「西園寺公望」)。
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