◎憎むな、殺すな、真贋糺すべし(川内康範)
昨日の話の続きである。ウィキペディア「おふくろさん騒動」の項には、次のような記述がある(同項の最終更新は2020年1月3日、閲覧は2020年7月14日)。
川内〔康範〕は、森〔進一〕が渡辺プロダクションの意に反して独立し、全民放で出演ができなくなった際に「せめて紅白だけでも」とNHKに出演できるように取りはからってくれるなど、森と渡辺プロの手打ちにも奔走してくれた大恩人でもあった。また川内も唐突に森を非難したわけではなく、既に10年前に歌詞の改変は自分の意思に反することを森には伝えており、その時に森は歌詞改変をやめることを承諾していた、と川内は主張している。
そのため川内の怒りは相当なもので、森の「謝罪」を退けた件を問いただす記者にはそれまで機嫌よく回答していた態度を急変させ、「三文芝居の片棒を担ぐお前らの質問には答えない」などとあからさまに不快感を示し、電話取材を勝手に打ち切ってしまうなどの行為も見られた。また川内は月光仮面のテーマとして「憎むな、殺すな、赦しましょう」としていたが、この一件以降に小説版の再版が行われた際は「憎むな、殺すな、真贋(まこと)糺(ただ)すべし」と改めている[9]。
最後に[9]とあるのは、注の番号で、これに対応する注は、次の通り。
[9] 川内康範『おふくろさんよ 語り継ぎたい日本人のこころ』、2007年12月20日 マガジンハウス刊 ISBN 9784838718306
また、「小説版の再版」とあるのは、二〇〇七年九月から、翌年三月にかけて刊行された『月光仮面』復刻版(ブックマン社、計四冊)を指すものと思われる。
一方、この間、紹介してきた樋口尚文著『「月光仮面」を創った男たち』(平凡社新書、二〇〇八)を見ると、その五九ページに次のようにある。
もっとも、かつてこうした無償の愛や「憎むな、殺すな、赦しましよう」という思想を標榜していた川内も、平成以降の凶悪犯罪や無差別テロの横行を経て、もはやこれでは生ぬるいと感じたようだ。「月光仮面」がヒーローだった昭和三〇年代は、「戦争という大きな憎しみの時代を経て、これからは人々が皆信じ合い、豊かで幸福な人生を送ることができるという希望に満ちていたのです。しかし、現在の日本はどうでしょう。テレビや新聞、週刊誌では、残忍極まりない殺人や、いじめによる子どもの自殺など、目を背けたくなるような陰惨な事件が、連日のように報道されています」という認識から、川内は二〇〇七年の小説版『月光仮面』の復刻に際し、長年のテーマを修正して「憎むな、殺すな、訊問せよ!」に変更したのであった。
ウィキペディア「おふくろさん騒動」の項の記述と、この樋口尚文氏の記述とでは、明らかな相違がある。国会図書館に赴くなどして、その「真贋(まこと)」を糺したいと思っている。
森進一の代表歌を封印できるかを見守ると、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、次のように判断しました。
作詞・作曲・編曲は著作権法による保護の対象となるが、歌手には著作隣接権(オリジナルバージョンについてはそのまゝ歌える)を有する。
川内康範は、熱心な「森進一の後見人」であったらしく、詩人としてのこだわりがこじれて残念なことになりました。
著作隣接権については、よくわかりませんが、もし、「オリジナルバージョンについてはそのまゝ歌える」ということであれば、「前語り」なしでも良いので、また、森真一さんの「おふくろさん」を、聞きたいものだと思っています。