礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

フランス革命におけるギロチンの意義

2015-04-28 09:35:22 | コラムと名言

◎フランス革命におけるギロチンの意義

 刑法学者・木村亀二(一八九七~一九七二)の『死刑論』(アテネ文庫、一九四九)は、小篇だが、なかなかの名著である。今日読んで、なお、得るものが多い。
 何よりも主張が明白である。木村は、死刑廃止論者であって、日本国憲法の第三一条は、改正する必要があると説いている。すなわち、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」という条文を、「何人も、法律の定める手続によらなければ、刑罰を科せられない」と、改正すべきだというのである(同書五六ページ以下)。こういった「憲法改正」論者は、きわめて稀有だと思う。
 また木村は、フランス革命時における「死刑」をめぐる議論を紹介しているが、これもまた、興味深い。これを読んで私は、いわゆる「ギロチン」には、死刑に執行方法における身分差別を撤廃するという意義があったことを初めて知った。
 本日は、同書の一五ページから一六ページまでを引用してみよう。

 二 ギロチンの歴史とその運命
 一 ロベスピエールの死刑廃止論は死刑廃止論のためには、皮肉ではあるが、名誉ではない。しかし、名誉ではないが、必ずしも効果がないではなかつた。国民議会は死刑の廃止を議決するには至らなかつたが、その執行方法を単一化し、一七九一年の刑法第二条には、「死刑は単純な生命の剥奪とし、死刑の宣告を受けた者に対しては何らの残虐を加へることが許されない」とし、第三条には、「死刑は斬首とする」とせられた。
 二 死刑の執行方法の単一化といふことは、今日の人々には、別にめづらしいことではなく、当然のことのやうに感ぜられるかも知れないが、死刑の歴史においては画期的な事実であつた。といふのは、刑法の歴史においては、死刑の執行方法は人間の残虐性が工夫・発明し得るところの、あらゆる形式を採つて来たのであつて、その方法は斬首・車裂き〈クルマザキ〉・絞首・石による撃殺・磔刑〈タッケイ〉・溺殺〈デキサツ〉・火刑・生き埋め・四つ裂き〈ヨツザキ〉・墜落殺等、十指をもつてしても数へ切れない。しかも、それが犯罪の種類に従つて執行方法を異にして同一刑法の中に規定せられてゐたのてある。例へば、一九三二年の、ドイツ皇帝カール五世の刑法典たるカロリナ法典の規定してゐるところでは、反逆罪に対しては四つ裂きの刑、放火・通貨偽造に対しては火刑、謀殺・毒殺に対しては車裂きの刑、嬰見殺に対しては生き埋めの刑、故殺・強盗・騒擾・強姦・堕胎等に対しては絞首刑、侵入窃盗や累犯窃盗に対しては絞首刑が規定せられてゐた。フランスでも、油ゆで・生き埋め・四つ裂きの刑が古くから行はれ、第十八世紀には、普通の犯罪については、庶民に対しては絞首、貴族に対しては斬首といふ区別が保存せられ、さらに、尊属殺・毒殺・放火・反自然的犯罪に対しては火刑が用ひられてゐた。わが国でも同様に、徳川時代には、その御定書百箇条〈オサダメガキヒャッカジョウ〉では死刑の執行方法が区別せられ、一般庶民に対するものとしては鋸挽き〈ノコギリビキ〉・磔〈ハリツケ〉・獄門・火罪・死罪・下手人〈ゲシニン〉の種類が定められ、士分に対しては斬首の一種・切腹が用ひられてゐた。
 このやうに、死刑の執行方法が多様に差別づげられてゐた上に、さらに、既に右によつても知られるやうに、その執行方法には身分的区別が附せられ、フランスでは庶民に対しては絞首刑が、貴族に対しては斬首刑が、又、わが国では士族に対しては特に斬首の一種・切腹が用ひられた。わが国での、右の死刑執行方法の身分的差別は明治維新以後まで維持せられ、明治三年の新律綱領では士族に対して死刑を言渡すときは自裁に処し、自ら屠腹させることとなつていた。【以下略】

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