◎日産リバイバルプランは誰がつくったのか?
一週間ほど前、近所の古書店で、鈴木博毅(すずき・ひろき)著『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社、2012)という本を入手した。これは、戸部良一ほか著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社、1984)という名著を紹介・解説した本である。この名著は、まだ読んでいないので、せめて解説本でも読んでおこうと思って購入した次第である。
鈴木氏の本は、「失敗の本質」を23に分けて解説しているが、「失敗の本質18 リーダーこそが組織の限界をつくる」では、その末尾で、「日産リバイバルプラン」に言及している。以下に、その箇所を引用してみる。
日産リバイバルプランは誰がつくったのか?
二兆一〇〇〇億円という巨額の負債。重大な経営危機にあった一九九九年の日産自動車 に、フランスのルノーからカルロス・ゴーンが最高執行責任者(COO)として就任しました。
「日産リパイパルプラン」とは、同氏が掲げた日産自動車の事業再生プランの名称です。
当時、日産社内の各部門の中間管理職を横断的に組織した、クロス・ファンクショナル・ チームは社会的に非常に有名な言葉にもなりました。
クロス・ファンクショナル・チームとして集めた人材を九つの分類で区分し、各チームを束ねるパイロット(リーダー)が任命されました。
書籍『カルロス・ゴーンが語る「5つの改革」(長谷川洋三/講談社)によると、ゴーンはこの九人のチームパイロットを役員食堂に招き、こう言ったそうです。
「日産が今必要としている改革とは何か。結果を恐れず、革新的な提案をしてほしい。パイロッ卜の提案は直接、日産の最高意思決定機関であるエグゼクティプ・コミッティーで検討する」
各パイロットはゴーンの強い熱意と本気を感じ、社内の人間を集めて何度もミーティングを重ね、リバイバルプランの骨子となるアイデア、改善提案を全社から懸命に集めます。
奇跡のV字回復を生んだプランの骨子は、社内の知恵を必死で集め生み出されたのです。そして、カルロス・ゴーンはアイデアに対して「実行の方向性を与える」役割を果たしました。
ゴーンと新生日産自動車は、たった四年で二兆一〇〇〇億円の負債をすべて返済し、低迷していたシェアを二〇%にまで引き上げる驚異のV字回復を成し遂げています。
奇跡的なV字回復を果たした改善プランの骨子が社内の人間から生み出されたことは いったい何を意味するのでしょうか。
日産自動車という集団が、もともと必要な能力を内部に持っていたということです。リーダーが柔軟に組織の全能力を引き出したことで、大躍進が成し遂げられたのです。
愚かなリーダーが「自分の限界」を組織の限界にする一方で、卓越したリーダーは、組織が持つ可能性を無限に押し広げて勝者となるのです。
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ま と め 愚かなリーダーは「自分が認識できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。
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この本の著者は、最高執行責任者(COO)のカルロス・ゴーンを、「組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用」したリーダーとして、非常に高く評価している。
ところが、2019年11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン代表取締役会長が、突然、逮捕された。すると、同月22日、日産自動車は、臨時株主総会を開いて、カルロス・ゴーンの代表取締役会長職を解任した。
その経緯については、当時も今も、新聞報道以上の情報を持っていない。しかし当時、この事件は、日産自動車と検察庁特捜部とが合作した「国策」事件に違いないと直感した。
同時に、日産自動車の「仕打ち」に、異様なものを感じた。こうした「仕打ち」は、いわば「恩を仇で返す」ものであって、日本的な風土からすると、ありえない事件だと思ったからである。【この話、さらに続く】