◎一億一心、必勝の確信の下に……(東條英機)
情報局編『アジアは一つなり』(印刷局、1943年12月)の「二、各国代表の演説」の部から、「帝国代表 東條内閣総理大臣演説」の章を紹介している。本日は、その二回目。
大東亜戦争の原因
顧みれば東亜の諸国家諸民族の間に於て、解放の義挙の起つたことは、一再に止まらなかつたのでありまするが、或は米英の暴戻〈ボウレイ〉飽くなき武力的弾圧に依り、或は彼等の異民族統御の常套手段である所の悪辣極まる離間策に依り、多くは失敗に帰したのであります。此の間に在りて日本の興隆は米英に取りましては最も好ましからざるものとなつたのであります。
茲に於きましてか、彼等は、一方に於て事毎に日本抑圧の態度に出づると共に、他方に於きましては日本と東亜に於ける爾他の諸国家諸民族との離間を策することを以て、彼等の東亜政略の要諦とするに至つたのであります。蓋し〈ケダシ〉東亜の隷属化を維持する為には、東亜に於て何れ〈イズレ〉かの国が強国として勃興致しますることも、又東亜の諸国家諸民族の団結することも、彼等に取り、其の最も不利とする所であるからであります。而して斯くの如き米英の東亜隸属化の野望は、特に最近数年間に於て愈〻悪質露骨となつて参つたのであります。即ち蒋〔介石〕政権を使嗾〈シソウ〉して、日華両国の国交を阻碍し、其の極、遂に不幸なる支那事変の勃発に至らしめ、之が解決に対しても有らゆる手段を弄して其の妨碍を策したのであります。而して今次欧洲戦争勃発後に於きましては、戦争の必要に藉口して平和的通商を妨碍し、更に進んで其の本質に於て戦争と異ならざる所の経済断交の手段に愬へ、他面東亜の周辺に於て武備を増強し、以て我に屈従を強ひんと試み、東亜の安定は根柢より重大なる脅威を受くるに至つたのであります。
斯くの如き米英の態度に拘らず、帝国は、只管〈ヒタスラ〉禍乱の東亜の天地に波及することを避けんと欲しまして、堪忍自重、最後迄平和的交渉に依つて時局の収拾を図つて参つたのであります。然るに米英は、何等反省互譲の態度に出でず、却て〈カエッテ〉益〻脅喝と圧迫とを強化して、帝国の存立を危殆に瀕せしめたのであります。帝国は遂に自存自衛の為、蹶然起つて東亜に対する挑戦に応ずるの已むなきに至り、茲に一切の障碍を破摧〈ハサイ〉して、東亜永遠の平和確立の為、国運を賭して征戦に邁進することとなつたのであります。
大東亜戦争開始せられますや、帝国陸海軍は、善謀勇戦、開戦後半歳ならずして克く東亜の全地域より米英の侵略勢力を駆逐、掃蕩致したのであります。大東亜各国は、或は宣戦を布告して共に戦ひ、或は緊密に戦争完遂に協力しつゝありまして、今や大東亜諸民族の自覚と熱情とは澎湃〈ホウハイ〉として大東亜の天地に漲り〈ミナギリ〉、内に於きましては各国相信じ相和し、外に対しましては米英の反攻を撃摧〈ゲキサイ〉して、自存自衛を全うし、以て大東亜永遠の安定を確立する為、勇躍邁進しつゝあるのであります。
惟ふ〈オモウ〉に、今次の戦争は大東亜の全民族に取りましては実に其の興廃の岐るゝ〈ワカルル〉一大決戦であります。此の戦〈タタカイ〉に勝ち拔くことに依りまして、始めて大東亜の諸民族ば、永遠に其の存立を東亜の天地に確保して、共栄の楽〈タノシミ〉を偕に〈トモニ〉致しますることが出来るのであります。洵に大東亜戦争の完遂こそ、大東亜新秩序建設の確立を意味するものであります。素より米英は、其の恃み〈タノミ〉とする物質的戦力を挙げて大東亜に反攻を繰返すことは当然であります。大東亜の諸国家は、其の全力を尽して之を徹底的に破摧し、更に彼等に痛撃を加へ、以て戦争を完遂して、大東亜永遠の安定を確保しなければならないのであります。此の秋〈トキ〉に当りまして、帝国は緖戦に獲得せる戦略的優位に立つて、雄渾なる作戦を続行して居るのであります。而して国内に於きましては此の雄渾なる作戦に呼応致しまして、愈〻国内態勢を整備し、特に最近之が決戦化を図り、真に一億一心、必勝の確信の下に強靱なる闘志を以て、飽く迄も此の大戦争完遂に邁進致して居るのであります。
茲に各位に依つて代表せられまする所の大東亜諸国も亦帝国と策応〈サクオウ〉し、其の全力を挙げて宿敵米英の反攻を撃摧し、以て大東亜永遠の安定を図らんとする決意の鞏固なるものあることを私は確信するものであります。【以下、次回】
本日、紹介した「大東亜戦争の原因」の節は、既に紹介した「一、大東亜会議と大東亜共同宣言」の部における「大東亜戦争の原因」の節と、内容や表現がかぶっている。これは、「一、大東亜会議と大東亜共同宣言」が、東條演説を踏まえて書かれているからであろう。