◎大東亜は米英多年の搾取の対象となってきた(東條英機)
情報局編『アジアは一つなり』(印刷局、1943年12月)の「二、各国代表の演説」の部から、「帝国代表 東條内閣総理大臣演説」の章を紹介している。本日は、その三回目(最後)。
大東亜建設の基本方針
次に大東亜の建設に関する帝国政府の基本的見解を申述べたいと存じます。抑〻世界各国が各〻其の所を得、相倚り相扶けて、万邦共栄の楽を偕に致しまするは、世界平和確立の根本要義であると信ずるのであります。而して特に関係深き諸国が互に相扶けて各自の国礎に培ひ、共存共栄の紐帯を結成すると共に、他の地域の諸国家との間に共和偕楽の関係を設定致しますることは、世界平和確立の最も有効にして且実際的方途であると申さねばならぬと存ずるのであります。
大東亜の各国が、有らゆる点に於て離れ難き緊密なる関係を有しますることは、否定し得ざる事実でありまして、斯かる関係に立つて、大東亜の各国が協同して大東亜の安定を確保し、共存共栄の秩序を建設致しますることは、各国共同の使命であると確信するのであります< 大東亜に於ける共存共栄の秩序は、大東亜固有の道義的精神に基くべきものでありまして、此の点に於て、自己の繁栄の為には不正、欺瞞、搾取をも敢て辞せざる米英本位の旧秩序とは、根本的に異なるものであります。大東亜各国は互に其の自主独立をば尊重しつゝ、全体として親和の関係を確立すべきものであります。相手方を単に手段として利用する所には、親和の関係を見出すことは出来ないのであります。親和の関係は、相手方の自主独立を尊重し、他の繁栄に依つて自らも繁栄し、自他共に其の本来の面目を発揮する所にのみ生じ得るものと信ずるのでありまず。
由来大東亜には優秀なる文化が存して居るのであります。殊に大東亜の精神神文化は、最も崇高、幽玄なるものであります。今後愈〻之が長養醇化して広く世界に及ぼすことは、物質文明の行詰りを打開し、人類全般の福祉に寄与すること尠からざるものありと信ずるのであります。
斯かる文化を有しまする各国は、相互に其の光輝ある伝統を尊重致しますると共に、各民族の創造性を伸暢〈シンチョウ〉し、以て大東亜の文化を益〻昂揚せねばならぬと考ふるのであります。更に大東亜の各国は民生の向上、国力の充実を図る為、互恵の下に、緊密なる経済提携を行ひ、協同して大東亜の繁栄を増進すべきものと信ずるのであります。大東亜は米英多年の搾取の対象となつて来たのでありまするが、今後は経済的にも自主独往、相倚り相扶けて其の繁栄を期さなければならぬと思ふのであります。
斯くの如くにして建設せらるべき大東亜の新秩序は、排他的のものではなく、広く世界各国との間に、政治的にも、経済的にも、将又〈ハタマタ〉文化的にも積極的に協力の関係に立ち、以て世界の進運に貢献すべきであります。口に自由平等を唱へつゝ、他国家、他民族に対し抑圧と差別とを以て臨み、他に門戸開放を強ひつゝ、自らは尨大なる土地と資源とを壟断〈ロウダン〉し、他の生存を脅威して顧みず、世界全般の進運を阻碍して来ました米英従来の遣り方とは全く趣を異にして居るのであります。
道義に基く大東亜の新建設は、現に戦塵の真只中〈マッタダナカ〉に在つて著々〈チャクチャク〉として実現を見つゝあるのであります。然るに米英側の印度に対しまするやり口は果して如何〈イカガ〉でありませうか。今や英国の断圧は、日に月に其の度を加へ、又最近に於ては米国の野望も加はり、彼等と印度民衆との軋轢乖離〈アツレキカイリ〉は愈〻激化し、印度四億の民衆は言語〈ゴンゴ〉に絶する苦悩を続けて居るのであります。特に最近之に依つてせられたる空前の飢饉は、米英自らも之を認むる所であります。
斯くて印度に於きましては志ある者は悉く牢獄に投ぜられ、無辜〈ムコ〉の民衆は総て〈スベテ〉飢ゑに泣いて居るのであります。是れ正に世界の悲劇であり、人類共同の痛恨事であり、義憤に燃ゆる我々大東亜民族の断じて放置し得ざる所であります。時なる哉〈カナ〉、スパス・チヤンドラ・ボース氏の蹶起するあり、之に呼応して内外の印度人士は起ち上り、茲に自由印度仮政府の樹立を見、印度独立の基礎は現に成つたのであります。帝国は曩に〈サキニ〉印度独立の為、有らゆる協力と支援とを致すべきことを中外に闡明〈センメイ〉致したのであります。大東亜の諸国家も亦斉しく〈ヒトシク〉印度独立完成の為、心からなる協力を寄せらるゝことを私は確信致すものであります。
米英が所謂大西洋憲章に依つて標榜せる所と、現に印度に対して実際に執りつゝある事実とを、彼等は如何なる論理に依つてか之を調和せんとするも、それは不可能の事であると存ずる〈ゾンズル〉のであります。併しながら吾人は今更彼等の矛盾を見て驚くものではないのであります。全世界の人々は今日迄米英の表面に掲ぐる美しき看板と、其の肚裏〈トリ〉に包蔵するものとの矛盾を、余りに多く見せつけられ、欺瞞と偽装と迷彩こそ、彼等米英の本性であることを已に〈スデニ〉熟知致して居るのであります。仮令〈タトイ〉敵側の為す所が如何なるものであるにせよ、帝国は大東亜各国と相携へて天地の公道を歩み、大東亜を米英の桎梏より解放し、大東亜各国と協同して大東亜の復興興隆を図らんことを期するのみであります。
今や大東亜諸国諸民族の結集は成り、万邦共栄の理想に向つて大東亜新建設の巨歩は堂々発足致したのであります。翻つて欧洲の情勢を見まするに、盟邦ドイツは愈〻国民的結束を鞏固にし、必勝の信念を以て米英撃滅と欧洲建設とに邁進しつゝでありまして、洵に力強き限りであります。大東亜戦争は実に破邪顕正〈ハジャケンセイ〉の聖戦でありまして、大義名分炳乎〈ヘイコ〉として我に在り、正義の向ふ所敵なく、究極の勝利の我に帰すべきことはを我等の信じて疑はざる所であります。
茲に大東亜諸国が、衷心より大東亜戦争に協力せられつゝあることに対しまして、深甚なる謝意を表しますると共に、今後益〻苛烈の度を加へむとする戦局に対処し、帝国は大東亜諸国と共に欧洲盟邦との提携を愈〻固め、必勝の確信の下、不抜の闘志を以て、如何なる困難も之を克服し、我等の共同使命とする此の大東亜戦争を完遂し、大東亜建設を完成致しまして、真の平和の確立に貢献せんことを固く期する次第であります。(拍手)
『アジアは一つなり』の紹介は、このあとも続けるが、明日は、いったん、話題を変える。
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