◎『福翁百話』の改造文庫版と創元文庫版
福沢諭吉の『福翁百話』を最初に「文庫」化したのは、おそらく戦中の改造文庫(一九四一)で、これに次ぐのが、戦後の創元文庫(一九五一)だと思う。
それぞれのデータを挙げておこう。
〇福澤諭吉著『福翁百話・百余話』改造文庫第一部第二三五篇、改造社、昭和一六年八月四日発行、本文二八六ページ、定価六〇銭
〇福澤諭吉『福翁百話』創元文庫A―42、創元社、昭和二六年一二月一五日発行、本文二七六ページ、定価九〇円
改造文庫版は、「福翁百話」と「福翁百余話」を収める。創元文庫版もまた、「福翁百話」と「福翁百余話」を収めている。
私は、この両方を持っているが、先に入手したのが改造文庫だったということもあり、参照の必要があるときは、いつも改造文庫版の方を手に取ってきた。
ところが、ごく最近になって、この改造文庫版に、重大な欠陥があることに気づいた。ハッキリ言えば、この改造文庫版は、『福翁百話』の完全版ではなかったのである。「福翁百話」全百話のうち、削られているものが六話あり、「福翁百余話」全十九話のうち、削られているものが三話あった。
ちなみに、創元文庫版では、削られている話はない。
なぜ、改造文庫版には削られている話があるのか。これは、編集にあたった富田正文(一八九八~一九九三)が、「時勢の変遷」に配慮して自己規制をおこなったからである。そのことは、改造文庫版の「校訂後記」(富田正文執筆)によって明らかである。以下に、「校訂後記」のうち、注目しなければならない箇所を引いてみる。
……今度本文庫に収めるに当つては、時勢の変遷により今日に於てはやゝ適切ならずと思はれ数篇を削り「福翁百話・百余話」と名づけたが、削除に就ての責〈セメ〉は総て校訂者の負ふところである。
次回は、「校訂後記」全文を紹介する。