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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

予科練もきれいな服装をさせて子どもらが喜んで行くようにする

2020-08-26 03:47:28 | コラムと名言

◎予科練もきれいな服装をさせて子どもらが喜んで行くようにする

 安藤良雄編著『昭和政治経済史への証言 中』(毎日新聞社、一九七二)から、遠藤三郎元陸軍中将の証言を紹介している。本日は、その三回目。

  陸、海で飛行機奪い合い
 ―― 昭和十八年〔一九四三〕に航空士官学校長から航空本部総務部長(兼航空総監部総務部長)にお変わりになったのですね。
 遠藤 とにかく飛行機が足らんでどうにもなりません。若いものを教えておっただけじゃ、飛行機そのものが間に合わなくなった。それで航空本部にやって、広い意味の航空要員ならびに飛行機の増産をやれということになりました。で、行きましたのですが、なるほど生産力が少ない。それから教育のやり方もまずいのですよ。すべてが欠陥だらけ。そのうちでもいちばん大きな欠陥は陸海軍のけんかですわ。驚いた のはどうしてこんなに陸軍と海軍で争っているのかということです。例をあげますと、三菱(重工)とか中島(飛行機)は陸軍と海軍と両方の飛行機をつくっているのですが(この二社が航空機生産の主力であった)、その同じ会社で陸軍の飛行機をつくっている技師と海軍の飛行機を研究している技師のあいだの交流を許さんのです。もう絶対秘密です。それから機材の融通もできない。
 たとえば同じ会社にニッケルがある程度あるけれども、それが陸軍で世話したニッケルだと、海軍の飛行機をつくるのにそのニッケルが必要でもやらんものだから生産があがっていかないのです。それから三菱で静岡の近くに工場を建てているのです。その工場を建てるのに建築材料は陸軍だったか海軍だったか、どっちかで世話して建てたので建物は出来上がったのですね。ところがそこに据えつける機械はこんどは反対側のほうの機械なものですから、それは工場の建物内に入れることが出来ない。それをいっしょにして工場として活動することを許さんのです。そこで建物はできたけれども、機械は別なものだから停車場におっぽりだして赤銹〈アカサビ〉になっている。それでもいっしょになってやろうとしない。
 それから土肥原さん(賢二。満州事変勃発当時奉天特務機関長、当時大将、のち教育総監、第十二方面軍司令官等歴任。戦犯として死刑)が私の行く前に航空本部長でしたが、台湾に旅行して台湾の海軍の航空施設を視察しようとしたら、海軍が見せない。それから山田〔定義〕という海軍の中将が海軍の輸送のほうの担当をしておりました。それが三重県の陸軍の飛行場にちょっと立ち寄りたい、飛行機を着陸させたいというが、陸軍で許してくれない。
 それから、同じ工場でつくった、陸軍でも海軍でもどっちでも使えるような飛行機ができると、武装した兵が取りに行くのですよ。血を流さんばかりの争いでしたね。それでこんな陰口があった。日本を亡ぼすものは英米にあらずして陸海軍航空だ。そういうひどいことを私は航空本部に行って見たわけです。
 人員養成にしても海軍は海軍で大学卒あたりのものをすぐ中尉にしてやる。予科練〔海軍飛行予科練習生〕あたりもきれいな服装をさせて子どもらが喜んで行くようにする。陸軍も負けておられるものかと大学卒業者をすぐ中尉にする、少年飛行兵を優遇して海軍の予科練に対抗する。それから各会社に航空兵器を注文するのに予算もヘチマもありはしない。来年度、再来年度の予算までやっちまって、おれのほうのを早くつくれというわけです。臨時軍事費ですからいくらでも金はとれるので、もうメチャクチャなのです。
 これはどうにかせねばいかんと思いましてね。幸い私とタイアップしておる海軍の航空本部の総務部長が大西滝治郎中将(二六九べージ参照)で、この人は非常にりっぱな人です。海軍大学は出ておりませんけれども、ほんとうに海軍の航空の第一人者だったな。そもそも私を陸軍の航空本部に引っ張ったのも陸軍の意見じゃないんです。この人がどうしても遠藤を自分とタイアップの陸軍航空本部にもってこいという意見で、その力が強かったようにあとで聞きましたがね。それでなくちゃ私は陸軍の異端者扱いにされているのだから、こんな要職に行こうはずはないのです。
 それから二人で相談いたしまして、陸海軍の航空を一本にしようということで、ずいぶん努力しましたけれども、どうしてもできない。そこでせめて陸海軍航空本部の将校クラブをこしらえて、飯でも毎日いっしょに食うようにして仲よくしようじゃないかというので、借家さがしをしておったのです。【以下、次回】

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