日本男道記

ある日本男子の生き様

方丈記(三):又治承四年卯月の頃

2024年03月05日 | 方丈記を読む


【原文】 
又治承四年卯月の頃、中御門京極のほどより、大きなる辻風おこりて、六條わたりまで吹けること侍りき。
三四町を吹きまくる間に、こもれる家ども、大なるも小さきも、一つとして破れざるはなし。さながら平に倒れたるもあり。桁、柱ばかり殘れるもあり。門を吹き放ちて四五町が外におき、又垣を吹きはらひて隣と一つになせり。いはむや家の内の資材、數を尽くして空にあり。桧皮、葺板のたぐひ、冬の木の葉の風に亂るゝが如し。塵を煙のごとく吹き立てたれば、すべて目も見えず。おびたゞしく鳴りどよむほどに、もの言ふ聲も聞えず。かの地獄の業の風なりとも、かばかりにとぞおぼゆる。家の損亡せるのみならず、是をとり繕ふ間に、身をそこなひ、片輪づける人、數も知らず。この風未の方に移りゆきて、多くの人の嘆きをなせり。
辻風はつねに吹く物なれど、かゝる事やある。たゞ事にあらず。さるべきもののさとしかなとぞうたがひ侍りし。

【現代語訳
また、治承四年卯月(四月)の頃、中御門京極のあたりから、大規模なつむじ風が巻き起こって、六条界隈まで吹いたことがあった。
三四町を吹きまくる間に、風に巻き込まれた家は、大きいのも小さいのも、悉く破損した。そのままぺしゃんこになって倒れたものもあり、桁や柱だけが残ったものもあった。門を吹き飛ばして四五町も離れたところに移し、また、垣を吹き払って隣との境をなくし地続きにしてしまった。まして、家中の資財は無数に空に舞い上がった。桧皮や葺板の類は、冬の木の葉が風に乱れるような有様だった。塵を煙のように吹きたてたので、目をあけて見ることができない。風がすさまじく鳴り響くので、人の話す声も聞こえない。かの地獄の業火の風でも、これほどひどいとは思われない。家が存亡しただけではない、壊れたところを取り繕っている間に、身を損なったり、体が不自由になったりした人は、数も知れない。このつむじ風は南南西の方向へ移っていって、多くの人を嘆かせたのであった。

◆(現代語表記:ほうじょうき、歴史的仮名遣:はうぢやうき)は、賀茂県主氏出身の鴨長明による鎌倉時代の随筆[1]。日本中世文学の代表的な随筆とされ、『徒然草』兼好法師、『枕草子』清少納言とならぶ「古典日本三大随筆」に数えられる。

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