日本男道記

ある日本男子の生き様

徒然草 第百五段

2021年06月22日 | 徒然草を読む


【原文】  
北の屋蔭に消え残りたる雪の、いたう凍たるに、さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、有明の月、さやかなれども、隈なくはあらぬに、人離れなる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて、物語するさまこそ、何事かあらん、尽きすまじけれ。
かぶし・かたちなどいとよしと見えて、えもいはぬ匂ひのさと薫たるこそ、をかしけれ。けはひなど、はつれつれ聞こえたるも、ゆかし。

【現代語訳】
陽が当たらない北向きの屋根に残雪が凍っている。その下に停車する牛車の取っ手にも霜が降り、きらりきらりと輝く。明け方の月が頼りなさそうに光り、時折雲隠れしている。人目を離れたお堂の廊下で、かなりの身分と思われる男が、女を誘って柵に腰掛け語り合っている。何を話しているのだろうか。話は終わりそうもない。
女の顔かたちが美しく光り、たまらなく良い香りをばらまいている。聞こえる話し声が時々フェードアウトしていくのが、くすぐったい。

◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿