
【原文】
延政門院、いときなくおはしましける時、院へ参る人に、御言つてとて申させ給ひける御歌、
ふたつ文字、牛の角文字、直な文字、歪み文字とぞ君は覚ゆる
恋しく思ひ参らせ給ふとなり。
ふたつ文字、牛の角文字、直な文字、歪み文字とぞ君は覚ゆる
恋しく思ひ参らせ給ふとなり。
【現代語訳】
悦子内親王が、小さなお嬢ちゃんだった頃、父上の隠居先を訪ねる人に「ことづて」と言って、渡した歌。
「こ」は二本「ひ」は牛の角「し」を曲げて「く」にして繋ぐ 君のことだよ
この歌は、「恋しく」思う歌なのである。
「こ」は二本「ひ」は牛の角「し」を曲げて「く」にして繋ぐ 君のことだよ
この歌は、「恋しく」思う歌なのである。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。