『中国経済の見通し』
4/24 NHKラジオ 津上俊哉さんのお話の要約です。
中国経済の減速の理由
今、中国経済は大きな曲がり角に来ている。
ここ数年、中国経済は高度成長を続けて
2010年には日本を抜いて世界第二の経済大国になった。
遠からず、GDPでアメリカを抜くという見方もされてきた。
しかし、これほど高成長が続いたというのには、わけがあった。
よく経済成長は、投資と消費それに輸出という3頭の馬車で説明をされる。
その説明に従えば、過去数年間の中国の成長は、投資の伸びに頼る面がすごく大きかった。
これの発端は 2008年のリーマンショックである。
経済が落ち込むのを懸念した政府は、4兆元の公共投資で景気の底上げを図った。
それと同時に、大幅な金融緩和を実施したので
一時、銀行はいくらでもお金を貸してくれるという時期があった。
それで、製造業から不動産、地方政府のインフラ建設まで、いたる所で投資が爆発的に伸びた。
土地代も含めた全業種の投資額は、公式統計に従えば、
リーマンショック前の2008年には15兆元だったのが、2009年には、19兆元、
その後、24兆元、30兆元、36兆元と、毎年20%以上の勢いで増え続けて、
昨年はとうとう、43兆元(日本円で約700兆円)を超えたと言われている。
しかし問題は、そうして行われた投資の質である。
製造業では、大量の設備投資をした結果、
製品の作り過ぎで値段が大きく落ち込んで、
投資した設備を止めざるを得ないという会社が増えてきた。
不動産は、金融緩和で価格も急上昇したので、
今のうちに買っておこうとか、値上がりを期待した利殖買いが起きて、需要も旺盛であった。
この結果、全国いたるところで住宅建設が起きたのであるが、
今や、こんなに高い値段のマンションをたくさん作って、
今後まだ買う人がいるのだろうか、という状況になってきた。
そして、政府も、道路や地下鉄など膨大なインフラ投資を実行した。
しかし、これらの投資というのは出費のかなりの部分を借金で賄っている。
当然利息の支払いや元本の返済の必要があるのであるが、
利益を生まない投資が積み上げられた結果として、
借金の返済期限が来ても、借り換えでしのぐしかない、という会社が今増えてきている。
こうした、”投資頼み借金頼み”という経済成長は、いつまでも続けるわけにはいかない。
ところが、『それでは、投資を抑えよう』としたとたんに、
今度は、主たる馬車の力が失われて成長率が大きく落ち込んでしまうわけである。
残る2頭の馬車、消費と輸出は合計しても4%分足らずの成長力しかなく、
投資を前年の横ばいにするだけで、成長率は 4%をを切りそうになってしまう。
もし、投資を前年より減らそうとすると、もっと低成長に落ち込んでしまう。
こういうわけで、投資で経済成長を牽引してきたやり方が続けられなくなっている。
これで、中国の成長率がずるずる落ち始めているわけである。
不動産バブルがはじける心配
北京や上海では、すでに東京より値段の高いマンションがたくさんある。
いくらなんでも値段が高すぎると思う。
しかし、日本のイメージを当てはめて、
『これは、バブル崩壊必死』と見るのは考えものである。
中国は、土地は国有で、売り手は政府だけである。
それで、土地の売り急ぎがなかなか起きにくい。
また、中国の不動産開発業者というのは、すごく資金回収が早いので
マンションが今後値下がりしても、
業者が倒産するというよりは、買った人が含み損を抱える、という場合が多い。
そういう国情の違いがあるので、直ちに日本と同じ道を辿るというふうには言えない。
シャドーバンキングについて
中国のシャドーバンキングというのは、
日本で言えば、ノンバンク金融というのに近い概念で、違法な取引きというわけではない。
ただ、金利がなり高い、という資金調達である。
普通なら、借り手は金利の高いお金は借りたがらないのであるが、
今は、借金の借り換えのために、金利が高くても借りざるを得ないという人が増えている。
それで、このシャドーバンキングというのが急増したわけである。
これも、投資と借金頼みの経済成長が限界に来ていることの、もう一つの表れと言えよう。
中国政府の新しい経済改革
政府も、従来の成長スタイルというのは曲がり角に来た、という危機感をかなり強く持っている、
昨年11月に開かれた共産党の三中全会では、習金平主席が、
『規制を緩和したり、民間企業の活力で経済成長をする』という経済改革プランを発表した。
今まで国有企業とか地方政府の抵抗で採用できなかったような改革内容も多数盛り込まれていて
かなり大胆な内容になっている。
ただ、大胆なプランが発表されたのであるが、
その改革が本格的に始動したという印象は、まだない。
そして、この3月に開かれた全人代では、
李克強首相が、雇用を増大させる必要があるので、
『7.5%前後の成長のため、投資を合理的に伸ばす』という方針を発表した。
失業が増えると、社会の不満や緊張が高まるから、理解はできるが
だからといって、このまま、投資頼み借金頼みを続けたら、
中国経済は、もっと大きな問題を抱えることになるだろう。
このように、中国は、今後当分の間は、
投資を減速させなければいけないということ、そして、社会の安定を保たないといけないということ、
この二つの相反する要請の間で厳しい綱渡りを強いられることになる。
日本や世界への影響
これまで中国経済が世界経済の成長を支えてきたので、経済的には相当なマイナスが及ぶだろう。
日本の株価もかなり影響を受けている。
特に世界の資源国は、中国の需要が落ちると相当困ることになるだろう。
他方、これまでの中国は、高成長と同時に軍事費を増やしたので、
周辺諸国に脅威感を与えるとか、国際政治や外交安保に悪い影響を及ぼしてきた面もある。
成長が低下したからと言って、中国がすぐに軍事費を抑えるとは思えないけれども、
中長期的には、一方では東アジアの政治的緊張に変化が及んでくると思われる。
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