『岐路に立つ日本経済、回顧と展望』
12/31 NHKラジオ 内橋克人さんのお話の要約です。
今年は、元旦の1月1日朝の ビジネス展望で、私がお話ししたが(記事はこちら)、
今年最終回の今朝も、また私の番という巡り合わせとなった。
1年の初めと締めくくりということで、
日本経済の今、そして新年の見通しについて率直に話したい。
昨日30日、東証の大納会で、日経平均株価は、またまた今年の最高値を更新し、
昨年末の終値に比べて、1年間で 56.7%もの値上がりとなった。
この高い上昇率は41年ぶりということで、
大納会に出席した安倍首相の”ご機嫌振り”がテレビを通じて放送されたばかりである。
これをすべアベノミクス効果という解釈が、今や社会通念とまでなってしまった。
前回のこの時間に紹介したような、
経済学の泰斗、伊東光晴さんのように、これに異論を唱える論者の声に(記事はこちら)、
耳を傾けようという向きは、さらに少数派になってしまうかも知れない。
しかし歴史の真実が姿を現すまでには、いつも一定の時間が必要である。
あの80年代後半のバブル膨張の時代、
その真っただ中で、これに警鐘を鳴らした人がどれだけいたであろうか?
90年代を迎えて初めて、人々はその幻想性と代価の大きさに気付かされたということであった。
それは、『経済変動の細部を、実証的に読み解いて、未来を予測する』、
という事のためには、相応の知識と勇気が必要だということを教えている。
さて、1年前の今年 1月1日、私は次のようなことを話した(記事はこちら)。
第一に、
発足早々の安倍政権は、まずは即効性のある政策を重視して景気対策に全力を集中し、
国民的な議論の分かれる国家的テーマについては、
少なくとも7月の参院選挙が終わるまで先送りするだろう。
これを私は『政治の経済化』と呼んできた。、政治がすべて経済に集中する、という意味である。
2番目に、
参院選の後、国民の意思と政治との乖離をもっともっと小さくしていく努力を怠れば、
安倍政権の危うさというものが露呈して、議会制民主主義が危機に立つ、という警鐘を鳴らした。
3番目に、
発足早々の安倍政権、早速始まった円安・株高で期待感が高まって、
高い内閣支持率を得ていた。
しかし総選挙の結果でみれば、自民党の獲得票数は、
小選挙区では、有権者数からみれば、25%足らず、比例代表では、17%足らずであった。
こういう中で”決められる政治”が暴走すると、民意とのねじれが際立つようになるだろう。
以上のような内容のことを話したが、1年後の今、
こうした予測を修正する必要は全くないと思っている。
さて、この年の瀬をピークにして、日本経済は岐路に差し掛かったと私は考えている。
”政治の経済化”から”経済の政治化”へ分岐点だと言いたい。
それは何故かと言うと、
まず第一に、実体経済への波及がほとんど見られないということである。
円安・株高は進んだが、実体経済は何も変わっていない。
前回にも伊東光晴氏の論説を紹介したが、
異次元の金融緩和ということで、マネタリーベースは急増させたが
市中に流通するお金は、ほとんど増えていない。
例えば、4月末と11月末を比べてみると全く、同じ89兆円である。
その間どんどんお金を供給したはずなのであるが、市中に流通するお金は同じである。
日銀の当座預金口座残高は 、その中の冷凍庫に眠ったままで、
企業が新規の借り入れを必要としていないからである。
2番目に、消費についてであるが
消費というのは、ストック型消費とフロー型消費の二つがある。
株とか土地など、資産価格の上昇・増加によって増える消費がストック型消費であり、
これに対して、月々の給与所得などからされる消費がフロー型消費である。
今はしきりに”高額商品が売れている”と報じられて、盛り上がってるように見える消費であるが
そのほとんどはストック型消費、
つまり、株式の値上がり益など資産価値の増加が増やす消費である。
ストック型消費は長続きしない、持続性がない、というのが経済学の定説であり、
過去の歴史の証明するところである。
一方、今、フロー型消費はほとんど増えていない。
3番目に、リフレ派の学者の方々は、
『実際に市中にお金が流れなくてもよい、
インフレ期待を高めるだけで、脱デフレの目的は達せられる』と言っている。
しかし、実体経済への実効性が一向に認められない時、
この、”期待への過剰なる期待”こそが破たんするのである。
伊東光晴さんは、『expectation』について、
『期待』というふうに翻訳しがちであるが、期待ではなくて『予測』と言うべきだと言われている。
4番目に、
この株価上昇が、外国人投資家による巨額の買い越しによって保たれているという事実である。
日経平均株価の上昇は、15兆円に迫るファンドなど外国人投資家の買い越しによるもので、
彼らは1/1000秒という猛烈なスピードでコンピューター売買を繰り返している。
現在の特徴は、日本の個人投資家の売り越しが巨大で、
それら個人が売った株を外国人投資家が買うという構図になっている。
まさに、不安定そのものと言える。
さらに、この4月の消費税増税も、
上述した問題の上にさらに積み増しされるものである事に、注意しないといけない。
以上、日本経済の特徴だけ述べてきたが、
成長戦略なるものの中身が、”規制緩和一辺倒、虚弱にすぎる”と、いう事が心配である。
安倍政権の本音は、
『質の高い日本の労働力を、アジア並みの低賃金で差し出すことではないか』
という批判も台頭してきた。
経済が政治問題化する、つまり”経済の政治化”という季節の到来が予想される。
岐路に立つ、ということはそういうことである。
来年の経済見通しについては、楽観・悲観の両論があるだろう。
しかし、安倍政権の
『まず企業が力をつければ、それが自然に国民生活の豊かさにつながる』という強い国家政策は、
これまで民主党政権が当初掲げてきた、
『国民の豊かさ第一』という政策とは、180度正反対の政策選択である。
『国益と国民益は違う』という事ことを、かねてから言ってきたが、
日本人がこの言葉を噛み締めるべき時が、
いよいよ間近に迫ってくる年になるのではないだろうか。
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