『2013年 日本経済回顧』
12/17 NHKラジオ 内橋克人さんのお話の要約です。
2013年は、政府・日銀によって進められたアベノミクスが、
現実的な効果つまり実効性を発揮しつつあるのかどうか、
一般生活者の方も高い関心をもって注目し続けた一年であったと言えるだろう。
専門家の間でも、アベノミクスの実効性については、様々な議論が交わされた。
しかしその多くは、
『日銀による金融の量的緩和と政府の財政措置が、株価上昇と円安をもたらした』、
という認識を大前提とした上で、
その効果が、今後、
『企業の設備投資、個人消費の拡大といった実体経済へのプラス効果となって
波及して行くのか否か』、
そういう議論のなされ方がほとんどであった。
こうした空気に乗って、高い内閣支持率が続いてきた、というわけである。
ところが、わが国経済界の泰斗として知られる伊東光晴さんが
『株価上昇も円安もアベノミクスの効果ではなく、
別の要因に基づくものであると断言できる』
と説く論考を、雑誌『世界』8月号(岩波書店発行)の誌上に発表して、各界に衝撃を与えている。
その伊東論文は、
極めて実証的、かつ緻密な分析の上になされたものであり、
リフレ派への警鐘として十分に説得できた、というふうに思われる。
その論文の表題からして、『安倍・黒田氏は何もしていない』というものである。
この伊東論文の要点をまとめておこう。
第一に、
黒田体制下の日銀による、異次元の金融緩和の帰結はどうだったのか?について。
異次元金融緩和といえば、ジャブジャブ市中にマネーを溢れさせる、というイメージである。
しかし実際には、日銀による貨幣供給量の増加分は、
その大部分が、各銀行が日銀に持っている当座預金の増加となっただけで滞留してしまっている。
つまり、現実には企業への融資として引き出されることなく、
いわば冷凍庫の中で眠ったままということである。
企業への融資として引き出されるならば、それが設備投資資金となり
そうなれば実体経済の活性化へとつながっていくわけである。
しかし、そうはならずに、
通常は銀行間の決済に使うのが目的の当座預金勘定の中に、
大部分は冷凍されたままだ、ということである。
結論から言えば、
企業の資金需要そのものがない、つまり借り手企業がないのである。
これでは異次元金融緩和が、実体経済の活況へとつながるはずがない。
第二に、それではなぜ株価は上昇したのか?ということについて。
伊東さんは、ここでも緻密な分析を行って、
『株価上昇の原因は、アベノミクス以外の別のところにあった』としている。
異次元の金融緩和を決めた日銀の金融政策決定会合というのは、
今年4月4日に行われているのあるが
その数カ月前から、すでに株価は上昇に転じていて、
黒田氏の日銀総裁就任決定時のはるか以前から、
つまり、遡れば、あの衆院解散以前から
株価上昇は別の要因で既にすう勢として始まっていた、ことを明らかにしている。
この文脈を理解するのに大切なことは、日本株式市場の特異性ということである。
伊東さんは、日本市場での株価の価格形成メカニズムというのを明らかにしていて
これを色々な分野から明らかにしているのである。
つまり、日本の株式市場での株価というのは、
主として外国人投資家のファンド・ヘッジファンドの行動によって決められているということである 。
それから、世界を視野に繰り広げられる海外投資家の分散投資の標的は
既に昨年2012年6月に、アメリカヨーロッパ市場からアジアへ、中でも日本に向かうと予想されており
2012年4月から9月まで売り越しだった海外投資家の行動が、
2012年10月を境に、つまり衆院解散以前に、もう、一転して買い越しへと変っていたということである。
すべては政権交代とは何の関係もない動きから始まっているということで、
詳細なデータと時間的推移が示されている。
第三に、それではなぜ円安に転じたのか?ということについて。
これも既に2011年の頃から、密かに日本政府による巨額の為替介入が行われていた、
と伊東さんは推測している。
政府短期証券を使って円を調達し、
これを為替先物のショートとロングの組み合わせといったような大変に複雑な手法を使って行った。
そして、その効果が 2012年末以降に出るようにしていた、と伊東さんは見ているわけである。
ひとたび、世の中で何か大きな流れというものが起こると
とかくマスコミは、その流れに合う現実だけをつまみあげて、人々を納得させようとする。
しかし大切なことは、異論、つまり冷静に物事を見ている意見を、
これを例えば、『景気に水を差す』などとして排除を続けると、
思いもかけぬ別の要因で流れがひっくり返ってしまうことにもなる。
仮に、一般に信じ込まれているのとは異なった要因で経済に変動が起きている、とすれば
当然、今度は一般の通念とは異なった要因で、突然の変動が経済を見舞うことになるだろう。
対策も違ったものにならなければならないはずである。
伊東さんは、『誤った理論は誤った政策を導く』という警告の書を、既に著しているのであるが
今回の雑誌『世界8月号』での伊東論文も、また、私たちにその危うさを教えてくれているのである。
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『99%の経済学(教養編)』を先週やっと入手して、読み終えました。
まだ(理論編)は入手できていません。(最近ア〇〇ン嫌いなので、書店か図書館が頼りです)
後日、感想など書きたいと思います。
今朝のお話は、伊東光晴さんの論文のご紹介でした。
雑誌『世界』はたまに買うのですが、この号は読んでいませんでした。
伊東光晴さん、お元気なんですね。
私が大学入学したての頃、50年近くも昔の話ですが、
伊東さんの著作、岩波新書『ケインズ』は、サミュエルソンの『経済学(都留重人訳)』と共に、
経済学を学ぶ学生のバイブルみたいなものでした。
今改めて、1927年のお生まれと知ったのですが、
34~5歳の時に、岩波新書『ケインズ』を書かれているんですね。
私たちは、内橋さんが言われる通りで、
色々考えたり判断する時に、ついつい新聞やTVや大きな声に頼ってしまいます。
それではいけない、という事が、ここ2~3年の間に、実際たくさん起こっています。
もっと目を見開いて、多少のお金を使っても、広く視野を求めるべし、とつくづく思いました。
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これまで過ごして来た戦後からの60数年は、
個人的にそんなに恵まれた経済環境ではありませんでしたが、
結構幸せな人生だったと感謝の気持ちが強いです。
この『真の暮らしの喜び』をこれからの世代にも残してあげねば、と思います。