『被災者を苦しめる三つの不条理』
3/14 NHKラジオ 内橋克人さんのお話の要約です。
東日本大震災から3年が経った今、
被災地では、被災者の方々の避難生活が長引く中、
体調を崩す、あるいは自ら命を絶つ、
そういった悲しい”震災関連死”が今も増え続けている。
あの過酷な大災害を生き延びた尊い命が、何故失われていくのか?
せっかく助かった命を何故守ることが出来なかったのか?
私たちは、この悲しい現実を、厳しく見詰めて究明していかなければならない。
まず、第一の不条理について。
地震・津波に加えて、原発事故に撃たれた福島県。
長い避難生活を迫られている、その福島の人々の震災関連死が
他の二つの県に比べて突出して多く、
福島県のまとめではすでに1664人にも上っている。
3県の合計の実に56%が、福島一県に集中しているのが現実である。
後でもう少し詳しく話すけれども,
この震災関連死、中でも原発事故関連死、は、何故なのか?
これこそまさに、三つの不条理の中の第一の不条理である。
不条理というのは、納得できない、正義に反する、
つまりは、
『正しい人間社会の在り方からかけ離れた、非道の現実』、
と解釈できるだろう。
次に、第二の不条理について。
それは、
原発事故が人々に浴びせた放射線被爆から逃れるために、
他の地域に避難した方々を見舞って(襲って)いる苛酷な現実である。
国から避難を指示された地域ではないけれども、
幼い子供たちを放射線被爆から守るために、避難の道を選んだ人達もいる。
そういう人たちを、『自ら避難した』したとして、
賠償や補償の対象にしない、あるいは格差をつける、などしている。
こういうやり方が、許されるのか!と、いうことである。
この人々を『自主避難(自ら避難)』と呼ぶこと自体に、私は違和感を覚える。
事故さえ無ければ、誰が好き好んで故郷を離れるであろうか!
今だ、放射線被爆の人体への影響が、解明されたとは言えない中、
この方々を『自主避難者』などと呼んでいいのだろうか?
本質はあくまでも強制避難であり、
その方々を差別的に扱う政府や東京電力のやり方こそが、第二の不条理である。
また、避難指示が続く地域とほんの1km離れているだけで、
東京電力による損害賠償(精神的苦痛への賠償)、
あるいは、また、休業補償(仕事を再開できないことへの補償)の、
どちらも打ち切られてしまった被災者がたくさんいる。
国策として原発を推進してきたのは、
国と東京電力であるにもかかわらずである。
第三の不条理は、最後に話すことにしよう。
冒頭でお話した、震災関連死というのは、
地震・津波・巨大災害から命が助かりながら、
災害が過ぎ去った後、
避難生活での体調悪化、あるいは自ら死を選ぶなど
震災とは異なった原因で大切な命が消えていくことである。
阪神淡路大震災て初めて認められたものである。
阪神淡路大震災では、震災関連死は921人(死者全体の 14%)であった。
ところが福島では、今の段階で既に1700人近く、異常と言うべき数字である。
被災地3県で見ると、
震災関連死の悲劇に見舞われた人は、実に3000人近くに達している。
警視庁によれば、
東日本大震災の死者は、今年2月10日現在で15884人、
今だ行方不明の方は、2636人である。
つまり、震災関連死とされた方々は、
震災によって行方不明となった方々を既に300人以上も上回る勢いで増え続け、
今後、さらに増えていくのではないか、と危惧されている。
問題は、
原発事故に見舞われ、その事故の性格から、
やむなく、長い長い時間の避難生活を迫られた震災関連死の方々なのに、
関連死認定の基準として、新潟県中越地震の際に長岡市が作った基準に倣い、
”震災から1カ月以上経過すると、関連死の可能性は低い”
などとされてしまうことである。
地元では、原発事故に合わせた新しい基準が必要だ、と切実な声が上がっている。
当然のことであろう。
関連死された方の9割以上が 66歳以上といわれる。
南相馬市や浪江町、富岡町など、
避難区域に指定された地域での関連死が突出して多いのであるが、
全く先の見えない生活、大きなストレス、不安、持病の悪化など
避難生活による肉体的・精神的疲労や、
移動中の疲労、病院の機能停止による既往症の悪化、
そういった、死へ引きがねとなった要因は多岐にわたっている。
被災された方々にとって、日常の取り戻しがいかに大切か、
言うまでもないところであろう。
そして三つ目の不条理について。
巨大災害の直後、あれほど声高に叫ばれた『社会転換』という言葉が、
今や、泡沫(うたかた)のように消えてしまったように思われる。
大量生産・大量消費・大量廃棄・エネルギー過剰消費社会を、
そして、成長至上主義の価値観や社会の在り方を、根底から転換しなければ、
21世紀には日本の未来はない、と声高に叫ばれたものであった。
それが今は、原発再稼働を進めようとする政権の下、
『景気さえ良くなれば...』と思い込まされた国民が、多数派となってしまったように見える。
以上が今朝申し上げたい三つの不条理である。
しかし、こうした中で、阪神淡路大震災に撃たれた神戸を中心として、
いかに被災地を支えるか、被災者とつながるか、真剣な運動が大きく展開された。
在るべき社会を求める志とか理念を、
非現実的などと言って捨て去る社会に、未来はない。
これこそ歴史の示すところである。
上述した、三つの不条理を克服することこそ、日本の針路。
日本が進むべき道であると警鐘を鳴らておきたい。
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