『欧州金融危機の行方』 4/5 NHKラジオ 藤原直哉さんのお話の要約です。
昨日、日銀が大胆な金融緩和を実施するという決定をした。
しかしこれは以前からアメリカとヨーロッパがやっていることである。
それを見ればわかるように、大胆な金融緩和だけで景気が良くなるということはない。
円安とか株高が進行していると言っても、それは今回一時的なものだと思われる。
やはり 1か月に発行する国債の7割を日銀が買い取るというのは
実質的に国債を日銀が直接引き取るのとあまり変わらなくて、
いったんこういうことを始めると終わりにできなくなる。
欧米でも、ずっとやって来た超金融緩和を、終了にできなくて困っている。
このようなやり方は、『片道切符の金融政策』といって、戻ることができなくなる。
その間にも、実体経済の中身はますます薄くなるという弊害が出てくる。
今回の日銀の決定は、後から評価が二転三転するのではないか、と思われる。
現在日本は、実体経済は不景気と物価高の最中にあり、
医療・福祉あるいは建設・土木のように、国の資金が出ている所以外は雇用は増えていない。
そして来年度の設備投資計画を見ても、相変わらず低調である。
だから個人・企業ごとに、
それぞれ自力で未来を突破する現場の実力がないと、とても乗り切れそうにない。
さて標題の欧州危機についてであるが、
欧州ではユーロが大きく下落しており、金融危機が全面的に再燃する時期が近づいて来ている。
ドイツでも、ドイツ銀行がデリバティブズで最大1兆4千億円の損失飛ばしをした疑いがあるとして
ドイツの中央銀行が捜査を始めている。
アメリカでも雇用を中心に決して景気があまり良くない、という指標が出ているし
中国も習金平体制になって株価は非常に不安定であり、
どう見ても、世界大恐慌は依然として継続中である。
中でも欧州の金融危機というのは構造的に非常に重要な問題をはらんでいる。
キプロスの破たんに、その問題が見えている。
キプロスというのは、ロシア人の経営者や富裕層のお金を集めて
ちょうど中国に対する香港のような立場に立って、経済的に伸びてきた。
ところが 2006年のサブプライム危機以降に銀行経営が行き詰まり、
いよいよEUから資金援助を受けざるを得なくなった。
しかしこの資金援助の見返りとして、
キプロスの銀行預金は、少額の引き出しや少額の決済を除いて封鎖されて、
日本円で1200万円以上の高額預金は、4割あるいは6割場合によっては8割が、
強制的に税金として召し上げられるという見通しである。
さらに、銀行自動引き落としとかクレジットカード決済はほとんど止められて
外国送金や現金持ち出しも厳しく制限されており、小切手の現金化も禁止されている。
さらに定期預金も満期が来ても、残高の9割は強制的に満期が延長されることになっている。
実質的に銀行破たんに伴う処理ではあるが、
ある日突然預金を封鎖して、税金でそれを召し上げるという新しい手法が使われたのである。
この方法だと、現在の預金保護制度は有名無実となったわけであるので、
国内外の預金者は、自分の預金が危ないと本気で心配している。
同時に、金融立国キプロスの経済は、根底から崩壊ということになってしまう。
こうした資金の移動規制を同じユーロを使っているキプロスで行っているために
事実上ユーロには、一般のユーロとキプロス国内のユーロと、
『二つのユーロが存在している状況』である。
この資金移動の規制は、解除すると一気に資金が逃げ出すので
かつてドイツにあったベルリンの壁のように、これを撤廃するのは現状では非常に困難である。
なぜなら、これは事実上ユーロが分裂したということを意味しているからである。
さらに、スロベニア・スペイン・イタリアなど、ドイツやEUの言うことをあまり聞かない国々では、
同様の措置が取られるのではないか、という不安が高まっている。
そして、キプロスに対して強硬姿勢を最後まで貫いたドイツに対する不信感や懸念が広がっている。
思い起こすと、ドイツはかつて第1次世界大戦で崩壊して、
戦勝国から返しきれない巨額の借金を負わされた。
その戦勝国の圧迫をはね返して、借金を事実上返さないということで
ヒットラーが国民の圧倒的支持を受けて登場して来た。
そして、ヒットラーのドイツが欧州各国を電撃的に攻撃して、征服して行った。
今回のキプロスの事件の最初と最後をつなげると、
ドイツがキプロスを借金を理由にして一瞬でつぶした、ということになる。
まさに当惑するほど歴史が繰り返されている部分がある。
すでに欧州では極右勢力の台頭が著しいし、
またドイツを中心とする EUの強硬的姿勢には非難が多い。
だが同時にドイツとしても、激しい不況と政治の右傾化で、
これ以上ドイツ人の税金を外国の救援に回すことは許せない、という声が広がっている。
まさにこれは80年前の世界大恐慌、第二次世界大戦前に見たことのあるような光景であり、
これがいま欧州に広がっているというわけである。
本題に戻って、ここまで欧州・米国が大胆な企業緩和をやっても、金融危機が止まらない、
あるいは本格的な景気回復にならないということは、
やはり、この先は 97年のアジア危機、98年のロシア危機のような
世界的な破たんの連鎖が広がる可能性が高いと思われる。
今度は、政府も打つ手を全部を尽くした後の事であるから、何ができるというわけでもない。
考えてみると
今の経済システムというのは
輸出も輸入もそれから投資もみな外国に依存して動いている。
だから、不景気になると立ち行かない国が出てきて、金融破たんをする国が出てくる。
つまり、おカネとモノの貿易やグローバルな取引きがあまりにも激しいがゆえに、
世界経済は不安定になっているという部分がある。
実は、これが今の人類の持っているシステムの、一番の弱さである。
無理に貿易や海外の資金の流れを増やして、それを経済成長だと言っているために
『経済が踊り場に達した時にこういう恐慌が始まり、それが連鎖する』
という問題を、第2次世界大戦の前のころから続けている。
そろそろ、こういう大きな問題について、文明の構造や世界システムを変えて、
もっと自給率を高め、あまりこういう世界の破たんが連鎖しないように
自国の国民の雇用を使って、経済成長できる体制に変えて行かないといけない。
しかしながら、今、
そういう大きな枠組みに対して、意欲を持って取り組んでいる政府あるいは企業がない、
というのは非常に残念なことである。
こういう状況の中で、
日本も今までと同じような経済を復旧するという考え方をしても元には戻らない。
全く新しいパラダイムを模索する以外に方法はないわけで、
今年はその大きな正念場の年になると思われるので、当面の情勢を注視する必要がある。
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