主権者国民は、神聖天皇主権大日本帝国下にあるのではないのであるから、「天皇のおことば」に対し、単純に「ありがたい」という紋切り型の思いに終わらせず、冷静に「おことば」に込められた意味を読み取る事が主権者国民として責任ある態度だろう。
まず、平和とは、「戦争をしていない状態」を指す言葉ではないという理解がなされているかという点である。平和とは「安全で安心して幸せに生活できる状態」を意味すると考えるべきである。だから、戦争をしていなくとも、上記の状態でなければ「平和とは言えない」という理解が必要である。「おことば」はそのように受け取れるだろうか。
また、「安全で安心して幸せに生活できる状態」というのは、「人権を尊重される状態」といえるが、そのような理解がなされているだろうか。「おことば」には「グローバル化する世界の中で、……叡智を持って自らの立場を確立し、誠意を持って他国との関係を構築していく事が求められている」とあるが、真の「叡智」や「誠意」の根底には「人権意識」「人権尊重の意識」が存在しなければそれは単なる紋切り型に言葉を繕っているだけであって、このような言葉は極めて抽象的な言葉であるから、何も生み出さないと考えられるが、どうだろう。強いて言えば、「叡智」や「誠意」などという主観的な曖昧模糊とした前近代的で国際的に理解しにくい言葉を使用すべきではないだろう。
国内において、原発事故問題、辺野古新基地建設問題、森友問題、加計問題、統計不正(改竄)問題などなど、挙げればきりがないが、主権者国民は安倍自公政権によって「安全安心な生活」を脅かされている(人権を侵害されている)。主権者国民にとってこれほど不幸な状態は存在しないにもかかわらず、「おことば」には含まれていない。これはどう理解すべきだろう。
また、「天皇として即位して以来今日まで、日々国の安寧と人々の幸せを祈り」とあるが、その「祈り」は、皇室の祖先として皇居内に祀っている「天照大神」など記紀神話に基づく神々へ守護を求める祈りであり、靖国思想に基づき全国に存在する「護国神社」祭祀を通しての同様の目的での祈りを意味するが、この祈りの行為は、神聖天皇主権大日本帝国政府が作り上げ国民に強要してきた国家神道を継承する宗教行為である。国民の個々の了解を得ない個々の意思を無視した、しかしそれを当然とするこの行為は主権者国民の「信教の自由」という権利を侵害する行為でなくて何であろうか。
また、「これまでの私の全ての仕事は、国の組織の同意と支持のもと、初めて行い得たものであり」とあるが、これは時の内閣(安倍自公政権)の助言と承認により、憲法第7条「天皇の国事行為」と位置づけられて行ってきたものなのだ、と述べているのである。責任は内閣に存在するという事を暗に述べているのである。また、「全ての行為」という言葉は、元来、第7条に含まれないと解釈されていた行為、いわゆる「公的行為(象徴行為)」も含めており、天皇自身がその内容を際限なく拡大増加してきた事について、一方的に正当性の根拠を主張し受け入れる事を促しているのである。さらに、これらについての「私がこれまで果たすべき務めを果たして来られたのは、その統合の象徴である事に、誇りと喜びを持つ事のできるこの国の人々の存在のお陰」という言葉は、「主権者国民の意思に基づいて行ってきたのですよ」との天皇の認識を一方的に押しつけ受け入れる事を促しているのである。さらに、「過去から今に至る長い年月に、日本人が作り上げてきた、この国の持つ民度のお陰」という言葉は、「現行日本国憲法以前の、敗戦以前の、大日本帝国憲法以前の過去を指しており、記紀神話の世界をも含む」言葉であり、天皇の認識を一方的に押しつけ受け入れる事を促しており、主権者国民として、看過してはいけない問題視すべき言葉である。
結論として「天皇のおことば」から主権者国民が読み取るべき事は、天皇(皇族)は「自らの人権意識が低いとともに、そうであるがために国民に対する人権尊重の意識も極めて低い」という、現行「日本国憲法」の原則に対する認識が低い事が読み取れるのである。
天皇は「象徴としていかにあるべきかを考えつつ過ごしてきました」「象徴としての天皇像を模索する道は果てしなく遠く」と述べているが、その答えは、そのような難しい事ではなく、自己や皇族の封建的な前近代的な生活意識の改革(人権意識を高める)に努力する事にある事と、現行日本国憲法(人権尊重の意識)に基づいて国民に対する事にある、と気づく事であろう。ちなみにこの事は、「跪いて」接する事を意味するものではない。
主権者国民も、自己のサディスティックな人権軽視の体質に気づき、天皇や皇族を封建的なスケープゴート的生活状態から解放するべきであろう。また、多くの国民に根付くこの体質は上記の他の問題を引き起こし自らに不幸を招くという悪い影響を及ぼしている事に気づくべきであろう。
(2019年3月7日投稿)